2010.04.07 Wednesday 23:27
■IMF(国際通貨基金) 通貨と為替相場の安定化を目的とする国連の専門機関。
本部はワシントンD.C.

国際情勢だの経済だの、そういう方面にとんと疎いブログ主は、IMFがどういう組織なのか、具体的なことを全然知らなかったですが……。

なんでIMFの話をするかっていうと、以前ベネズエラのオーケストラ教育についての本『エル・システマ』を読んだとき、初めて知った衝撃の事実があったんですね。
この本では、ベネズエラの経済状況にも触れているんですが、ベネズエラも過去に財政危機に陥り、IMFの支援を受けたことがありました。それに関する記述の中に、こう書いてあったんです――― ラテン・アメリカ諸国の債務危機に陥った多くの国々が、IMFを「悪魔」と呼んでいる、と。あ、悪魔!?

驚いてネットで調べたら、IMFってこれがかなり評判悪いんですね。
その過程で、IMFの矛盾を見事に描き出したドキュメンタリー映画があることを知りました。それがニューヨーク在住の女性監督、ステファニー・ブラックが製作した『ジャマイカ 楽園の真実』(2001年)。

―――レゲエ・ミュージック発祥の地、ジャマイカ。カリブ海に囲まれた「楽園」を求めて欧米からの観光客が多く訪れる。しかし、実際のジャマイカは、政府が多額の借金を抱え、アメリカ資本やIMFの管理体制に苦しめられている、貧困国だった―――

監督のステファニー・ブラック自身、この映画を撮る前は、「IMFは貧しい国を助ける赤十字みたいなものだというイメージを抱いていた」という。多くのアメリカ人も、そういう認識を持っているのだろうね。

IMFや世界銀行、WTO(世界貿易機関)が推進しようとする「グローバリゼーション」=地球規模の自由貿易。
そのシステムは、アメリカを中心とする先進国にとって有利なゲームだ。しかし途上国の側から見ると、このゲームは決してフェアでないことがわかる。この映画は、途上国であるジャマイカの人びとの視点に立って、IMFの歪んだシステムを告発したものだ。

IMFが危機に陥った国にお金を貸すとき、もちろん高い金利も取るけど、それ以上に厳しい条件(構造調整プログラム)を債務国政府に課す。具体的には、「通貨の切り下げ」「政府の公的支出の削減」「貿易規制の撤廃」などを被援助国政府に要求する。 「金が欲しければこの条件を実施せよ」というわけだ。
IMFを「経済進駐軍」と呼んだ人がいるけど、IMFのプログラムは、国内の構造を根本から変えてしまう、経済的な占領政策みたいなものだ。
そのあたりをわかりやすく語っている『ジャマイカ 楽園の真実』の動画はこちらに。

ジャマイカは400年にわたる植民地時代を経て、1962年に英国から独立した。しかし小国であるために、いきなり自給自足のできる経済体制を築くことはできなかった。1977年、オイルショックの危機を乗り越えるために、IMFと世界銀行から借り入れをすることになる。
当時のジャマイカ首相、M・マンレイは、映画の中で「IMFの合意書に著名したのは、私の政治人生において最も苦い経験だった」と語る。
IMFのプログラムを受け入れたジャマイカは、かえって貧富の差が拡大し、累積債務に苦しんでいるという。

映画の中で、西インド大学のウィッター教授が語った内容をまとめるとこんな感じ。
70年代に8億ドルだった債務は、80年代には40億ドルに、現在(2001年)は70億ドルに債務が膨れ上がった
ジャマイカ政府は国家予算の52%を借金の返済にあてている。 つまり、48%しか国内政策に使えないのだ。 当然、社会福祉政策が大幅に制限されることになる。

IMFは自由貿易を推進し、貿易規制(関税など)の撤廃をジャマイカ政府に要求する。すると安い外国産(とりわけ米国産)の作物が大量に輸入され、国内の農業が大打撃を受ける。このあたりの事情は、日本の農業も同じだろう。
市場が開放されることは、消費者にとっては「より安く」商品手に入るため、「いいこと」と思われるかもしれない。 しかし、自由市場とは、より強い立場のもの(この場合は米国)に有利となる。

ジャマイカの農家は、いきなりアメリカの農家と競争しなければならなくなった。昔ながらの農業を営んできたジャマイカの農家は、機械化された生産設備を持つアメリカの農作物にかなわない。
しかも、ジャマイカの農家は「フェアでない」状況で競争しなければならないのだ。
というのも、ジャマイカ政府が農家に融資するときの金利を、IMFが勝手に決めちゃうんです。そのIMFの指定した金利が、なんと23%なんです。サラ金並みの金利だな。
その部分の動画は、こちらで見られます。(01:30あたりから)
ジャマイカ元首相、M・マンレイの語った部分を以下に引用。
IMFに言われた。前年度ジャマイカのインフレ率は18%だったと。
インフレ率が高い場合、IMFが12%の金利で貸してる金を、同じ金利で農家に貸すのを許さない。23%にしろと言う。
私は何度も米国に訴えに行った。それは間違った経済政策だと。こんな高金利を農家に課すなんて非道だ。でもそれがIMFの融資条件なんです。
私は言ってやりました。米国の農家に融資の金利は23%だと言ったらどうなるとね。激怒して暴動を起こすだろう。
IMFの金利12%というのも、ずいぶん高いな、とびっくりしましたが。

この映画には他にも、たくさんのジャマイカ人が登場して、IMFの推進する政策が、決して貧困の解決になっていないことを告発する。

フリーゾーン(自由貿易地域)と呼ばれる工場地帯で働く女性たちの話が印象的だった。アメリカ企業が経営しているTシャツ縫製工場なんだけど、ここは経済特区で、「ジャマイカにあるのに、ジャマイカ国内の法は適用されない」ところだという。だから、びっくりするほど低賃金(週30ドル!)で働いているのに、労働組合をつくることも禁止されている。
この工場地帯は、「ジャマイカ人の雇用を増やす」という名目で、IMFや世界銀行の融資を受けてつくられた。ジャマイカ政府は今も、負債を返済し続けているという。だがジャマイカの工場はすでに閉鎖され、アメリカ企業は、人件費のより安いハイチやドミニカに工場を移してしまった。

この映画を見ると、「あれ? IMFの『支援』って、結局はアメリカ資本が利益を得る仕組みになってるんじゃないの?」という疑問を嫌でも持ってしまう。

それもそのはず、IMFは「すべての加盟国のための組織」ではなく、「欧米先進国のための組織」なんですね。
というのも、IMFは国連総会のような一国一票制度ではない。
IMFの議決権は、出資額に比例するのだ。米国は17%で、ダントツの1位。IMF専務理事などのスタッフは欧米人によって占められていて、途上国の人たちの声は反映されにくいシステムになっているのだ。(ただし、今後は中国など新興国の出資額が増える見込み。)

ちなみにIMF出資額2位は日本。日本も、ジャマイカ貧困の加害者サイドにいるわけです。
しかしジャマイカに突きつけられたIMFの政策は、日本がアメリカに要求されてきたことと、まったく同じ内容だ。貿易規制の撤廃と、自由市場経済の推進。そのために起こった国内産業の空洞化。これは私たちも体験していることだ。
私たちはグローバリゼーションの被害者でもあり、加害者でもある。

それでも日本は、先進国であって、途上国を援助すべき立場だとは思うんですが……「支援」って何だろう?と考えさせられました。現地の人たちが「自分たちでやっていける」ようにするのが理想なんだけど、実際には先進国の奴隷状態に置かれている、という矛盾。それがIMFの行なってきた「支援」の実態だったらしい。
それはジャマイカに限らず、ブラジルやアルゼンチンといった他のIMF債務国でも、この映画を上映した際、「我々の国も(この映画と)同じです。」と口々に言われたらしい。

ところで、冒頭のベネズエラにちょっと話を戻すと、ベネズエラのチャベス大統領は、IMF・世界銀行から脱退して、中南米に反グローバリゼーションの新たな貿易システムを築いているんだけど―――話がややこしくなるので、この話はやめておきます。

IMFが「貧困の撲滅」という美名のもとで、何を行なってきたのか―――これからの世界が、できる限りフェアであるために、知っておくべきことだと思いました。

| ●月ノヒカリ● | 社会 | comments(7) | trackbacks(1) |
2017.06.13 Tuesday 23:27
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Comment
2010/07/15 11:06 PM posted by: す
今日はじめてブログを拝見しました。とても参考になりました。ありがとうございます。お体の調子はいかがですか?少しずつブログを読んでいきたいと思っています。
2010/07/17 10:57 PM posted by: 月ノヒカリ
すさん、初めまして。
こんな長い記事を読んでくださってありがとうございます〜。

このブログは、見ての通り、そんな真面目なブログではなく、趣旨のよくわからない変なブログなのですが、よろしければ今後もお付き合いください。
コメントありがとうございました〜。
2010/07/18 12:54 AM posted by:
月ノヒカリさん初めまして、すです。

とても読みやすい文章で難しい話も理解しやすくてたすか

ります。
2010/07/20 11:26 PM posted by: 月ノヒカリ
すさん、再びこんばんは。

私も難しい話を読むのは苦手で、少しでもわかりやすく説明しようと思って書いているので、そう言っていただけて嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2013/03/31 1:00 PM posted by: 株式の勉強
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。
2013/04/11 9:00 AM posted by: メタボ親父
はじめまして。「政府は必ず嘘をつく」(堤未果)の本を読んで「ジャマイカ 楽園の真実」というキーワードで検索してブログを読まして頂きました。
すばらしいブログですね。私も発信したい事がたくさんありブログを書く準備をしているところなんです。
DVDも「エルシステマ」もみたいと思っています。
これからのブログも楽しみにしています。
2013/04/13 12:16 AM posted by: 月ノヒカリ
メタボ親父さん、はじめまして。
古い記事を読んでくださってありがとうございます。

堤未果さんの本はあちこちで話題になっているので、気にはなっていたのですが、未読なのです。

このへっぽこブログが「すばらしいブログ」かどうか、ブログ主にはまったく自信がありませんが……ちょっとでも気に入ってくださったのなら、嬉しいです。

ブログはいいですよ〜。
こうして過去に書いた記事にもコメントをいただけますし。
メタボ親父さんもぜひお書きになってください!

コメントありがとうございました〜。
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2010/04/09 6:36 AM posted by: 日っ歩〜美味しいもの、映画、子育て...の日々〜
ジャマイカの現状を追ったドキュメンタリー作品。原題は「Life and Debt」、つまり、生と借金です。ここでの「借金」とは、国が国際機関から借りた開発のための資金のこと。 南国の楽園ジャマイカ。燦々と降り注ぐ陽の光。どこまでも青く美しい海。夢のような豪華な
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