2010.05.22 Saturday 22:43
評価:
小飼 弾
サンガ
¥ 1,680
(2009-11-26)
コメント:大文字の部分には同意するけど……

小飼弾、通称ダンコーガイ。
プログラマで、アルファブロガーで、会社を経営したりしているマッチョな人。

今話題になってる「ベーシックインカム」導入を提案する本です。
ベーシックインカムとは、政府が無条件に、個人に現金を給付する制度。
この本で小飼弾氏は、金額は月5万円、財源は相続税100%を提案する。
ベーシックインカムについては、私もそれほど詳しいわけではないのですが、この本はわかりやすい入門編ではある、かな?

特に冒頭にでてくる言葉、
「社会は人のためにあるのであり、人が社会のためにあるのではない。」
これには心底、「その通り!」と膝を叩いた。

しかしその後に続く言葉に、皆さんは同意できるだろうか?
小飼弾氏は、私たちが当たり前に信じている倫理「働かざるもの、食うべからず」を否定するのだ。この倫理こそが、我々を不幸にしているのだ、と。

ダンコーガイは、「人間はそもそも働いたことがない。自然から収奪しているだけ」という。一理あるものの、誰もが納得できる理屈かどうかわからない。(実際、この本で語られる「理屈」って、ちょっと論理が飛躍しすぎてて、私には納得しがたい部分が多々あった。)

私自身、これまでずっと「働かざるもの、食うべからず」という倫理観にとらわれていた。
ただ、自分が大学卒業後、社会に出て多少は働いたり、病気になったり、そういう経験をしてきた今は、この倫理を疑うようになった。

いわゆる第一次産業なら、「働く」ことと「食う」ことの間には、密接な繋がりがある。例えば、農業をやる人が、「食べるための野菜をつくる」という仕事をすること。これはわかりやすい。
ただ、今ある「仕事」って、「食う」こととはあまり関係ない気がする。
はっきり言えば、私がやってきた仕事って、「社会の役に立ってる」という感覚はまるでなくて、なくても全く構わない仕事、「いらない仕事」ばかりだった。「仕事」の充実感や達成感なんて、まるで縁がなかったし。

その上、病気になって「働けない」ときには、「働かざるもの、食うべからず」という倫理観ゆえに、余計に苦しまなければならなかった。「働いていない自分は、生きていてはいけないのではないか」という苦痛。
でも、よくよく考えたら、働けないくらいで、そんなに苦しむ必要ってあるのだろうか?という疑問がフツフツと沸き起こってきて。

だから、私はダンコーガイみたいなマッチョではないけど、彼の主張の大枠の部分には、かなり同感する。その上で、納得できない部分も多々ある。
全部は書けないけど、部分的に取り上げてみる。

■今の貧困は血行不良■(P.25)
今の貧困は、ものが足りないからではない。ものなら十二分にある。つまり、今の貧困を人体に例えると、「飢餓」ではなく「血行不良」である。だから処方箋は、「血行をよくしろ」(=ベーシックインカム導入)となる。
なるほど納得。
ついでに言えば、今日は「貧乏サイドだけでなく、お金持ちサイドもいつ没落するかわからないから不安だらけ」らしい。私はお金持ちの気持ちはよくわからんが、確かにそれじゃあ「血行不良」にもなるよね。


■働くことが「義務」ではなく「権利」になる■(P.85)
これがベーシックインカム導入の、一番の効用だと思う。
人が「食うために働く」のではなく、「新しいものをつくりたい。好きなことを極めたい」という動機で働くようになる。
これは、小飼弾氏自身が「やりたいこと」を極めた結果、成功したから人だからこその発言でしょう。ツッコミどころはあるかもしれないけど、とりあえずここでは受け入れておく。

ダンコーガイは良いことも言ってる。
「好きなように働く社会というのは、いわば一生教育である」から、「失業者に対する教育は、なるべく無料で」(P.161)というところ。
これ、理想としては正しいし、ぜひ実現してほしい。ただ、実際には難しいかもしれない。今だって、公的な職業訓練を受けても、就職できるとは限らないのが現実だから。


■「努力」よりも「一心不乱」■(P.88)
ダンコーガイは「努力は報われません」と清々しいくらいきっぱり言い切る。努力が報われる世の中はもう終わり、今後の「成功」は結果論でしか測れない、と。
その上で、「自分のやりたいことを一心不乱にやる」方がいい。
一心不乱になにかをし続けられることそのものが報酬であるべきだという。

ここ読んで、今までモヤモヤして腑に落ちなかったことが、スッキリ氷解した気がする。
私はこれまで、上の世代の人とか、いわゆる「成功者」が推奨する「努力」という言葉に、違和感を感じてきたんだよね。どうも彼らの言う「努力」って、自分の考える「努力」とは別物に思えて。

成功した人は、「自分の好きなこと」を一心不乱にやり続けることを「努力」と言っているのではないか? 例えばイチローは努力の人だと言うけど、それは大好きな野球の練習を「一心不乱」に続けてきただけではないのか? それならば、その「努力」という言葉は、「熱中」とか「一心不乱」と言い換えてほしい。

私にとって「努力」とは、「自分がやりたくもない仕事やつらい状況に、ただ歯を食いしばって耐え忍ぶ」ことだった。
「好きなこと」を仕事にできた人間と、私のように、選択肢がなくてとにかくできる仕事をしなければならなかった人間とは、「努力」の意味が根本的に異なると思う。それは混同してほしくない。

その上で、誰もが「やりたいこと」ができるようになるなら、それは素晴らしいことだと思うけど、それで社会が回っていくのか?という疑問も当然出てくる。「誰もやりたがらないけど必要な仕事」はどうなるのか?とか。それに対する答えは、この本には書かれていない。


■「所有」から「利用」へ■(P.68〜)
「土地」の例がわかりやすい。「所有」するのではなく、「必要なときに、必要なだけ利用できればいい」という考え方。
お金も、「寿命分レンタルしてるだけ」と考えて、「死ぬまでに使いきれなかったお金は、ベーシックインカムの原資にしてみんなのものにしよう」=「相続税100%にしよう」という主張。
筋は通っているな。実現可能かどうかはわからないけど。


■政府はバカでいい■(P.194〜)
ダンコーガイ曰く賢くなるのはわれわれの仕事で政府の仕事ではありません。
すごいことを言うなあ。

確かに今の時代は、何が正しいのか、ますます正解がわからなくなってきている。
今までは、国が「コレが必要だろう」というものを勝手につくって与えてきた。しかし今は、各個人が何を必要としているのか、国にはわからない
だから政府はお金を配ることに徹する。きめ細かいことは、「人」がやればいい。

―――過激なこと言っているようで、かなりまっとうな主張だと思う。
宮台真司がよく主張する「小さな政府・大きな社会」に近い考え方ではないか。
「大きな社会」すなわち「きめ細かいことは人がやる」というのは、実際にはNPO法人なんかが担うことになるのかもしれない。現実に、何をどこまでできるのか、まだカタチが見えてこないけど、それは私たち自身の課題なんだろうな。


■安心して死ねる社会へ■(P.168〜)
私にとっては、ここの部分がいちばん突っ込みたくなった。
小飼弾氏は、「がんにかかった場合でも痛みを緩和するにとどめて積極的な延命をしない」のを選択肢として組み入れること、さらに「延命のための医療費は有償化すること」を提案する。
ダンコーガイはこう語る。
私は延命治療は望まない派ですが、命をお金で買いたい人たちも止めたりはしません。ただ、「そこまでして長生きするのがおまえの生き方なのか?」というのは問いたいです。
   『働かざるもの、飢えるべからず。』P.179(太字は原文のまま)
私自身も延命治療は望まない派だけど、いろいろ突っ込みたいわ。
小飼弾氏は、高齢者のがん患者を想定してるんだろうけど、現実には、20代、30代でがんにかかる人も結構いるんですね。私もその一人だけど。
で、自分が癌になって、周囲から得た情報からいわせてもらえれば、「延命治療」と「緩和ケア」って、はっきり線引きできるわけではないんだよ。だから「緩和ケアなら保険でカバーするけど、延命医療だけは自分の財布でやってね」というのは、理論的に不可能な話だと思う。

その上で、確かに今の医療は延命治療が標準になっていて、それ以外の選択肢が示されないのは、私も問題だと感じていた。
ダンコーガイは「死に方を自分で選べる」(つまり、延命なしで緩和ケアのみも選択できる)ことを選択肢として提示せよ、と言う。
それなら私は、(自分の意志による)積極的安楽死も選択肢に入れるべきだと思うんだよね。

緩和ケアを受ければ、末期がんの苦痛から免れるというわけではない。
私は、人には苦痛のない死を選ぶ権利があると思う。
ついでに言えば、生きたいのにお金がないから延命治療を受けられないのも不幸なことだと思う。

生きたい人は延命治療を受けて生きることができ、苦痛に耐えられない人は、安楽死を選ぶことができる。私にとっては、それが理想だ。
私も小飼弾氏と同じく「死の選択肢」は多い方がいいと思っている。
でも私が違和感を感じるのは、ダンコーガイが「年を取ってがんで死ぬ」というのを「標準的な死に方」と想定しているように見えること。現実には、人は何歳であっても、病気になったり、障碍を負う可能性はあるのに、それを全く考慮に入れていない。

ただ、こういう医療と死の問題って、微妙な問題を含むからかもしれないけど、私が感じているような違和感をはっきり語ってくれる人は少ない。ダンコーガイは、突っ込みたいところはあるけど、この問題についてちゃんと書いてくれたことには、敬意を表したい。

今の社会は、「長生きしてください」と言いながら、腹の中では「とっとと死んでください」と思っている(P.188)というダブルバインドのメッセージを発している。
それに対してダンコーガイは「安心して生きていける社会というのは、安心して死ねる社会でなければいけない」(P.189)という。それが幸せな社会の基本原則だと。
私も、これから先の社会や自分の行く末を思えば、「医療」と「死」については、ちゃんと考えなきゃいけないと思う。ただ、ここでは書ききれないからこの辺でやめておくけど。

     *     *     *     *     *
ダンコーガイはプログラマだからか、社会の「仕組み」に関しては、面白い視点を持っている人だと思う。
ただ、ダンコーガイのいう通りに実践したら、マッチョに都合のいい社会になりそうだなあ、という気がする。

ベーシックインカムなんて本当に実現できるのかわからないし、実現したところで、ユートピアになるとは私には思えない。
むしろますますマッチョ優位の社会になるかもしれない。
私は、私自身が強くなりたくてもなれなかったから、弱くてもそれなりに生きていける社会がいいのですが。
そのためには、弱い立場にいる人自身が、きちんと声に出して、自分の意見を伝えていかなければならないと思うのですが。でも、きちんと自分の意見を言える人って、すでに「弱者」ではない気もするんだけどね。ある程度強くなければ、声をあげることすらできないというのが現実だと思うんだけど。

ベーシックインカム論は、思考実験としては面白い。
でも、「弱い人がそれなりに幸せに生きていけるように」と私が望むなら、ベーシックインカムがあろうとなかろうと、目指さなければならない方向は、他にあるという気がする。

なんか歯切れの悪い、まとまらない文章だなあ。と自分でも思ってしまいますが。
この問題(ベーシックインカムとか医療とか)については、また追々考えたり書いたりしていきたいです。

| ●月ノヒカリ● | 読書感想 | comments(4) | trackbacks(3) |
2018.09.11 Tuesday 22:43
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Comment
2010/05/24 12:34 AM posted by: 村野瀬玲奈
私のじゃないけど、こんな記事もありますよ。

努力しない人を国家が救済すべき14の理由
http://d.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20081214/p1
2010/05/25 11:38 PM posted by: 月ノヒカリ
玲奈さん、こちらでもこんばんは。

>努力しない人を国家が救済すべき14の理由

読みました。なるほどですね。

そういえば、先日のハーバード白熱教室でも、「努力による能力主義は欺瞞である」ということを言っていました。
社会問題を語るときに、「努力」という曖昧な尺度で決めつけるのは、無理があるように思います。

コメントありがとうございました〜。
2010/06/27 2:05 AM posted by: 緑虫
『つまらない単調なことを、退屈に耐えてコツコツ続ける』子を、大人は「真面目な良い子」とほめますよね。計算練習とか、漢字練習とか。その価値観が日本から元気を吸い取っているような気がします。
そして、面白いことをやろうとすると『自己責任』とか言い出す。
そうではない大人になりたいものです。
2010/06/27 11:36 PM posted by: 月ノヒカリ
緑虫さん、はじめまして。
当ブログにお越しいただき、ありがとうございます。

>『つまらない単調なことを、退屈に耐えてコツコツ続ける』

これが一番必要とされるのは、工場労働でしょうね。
高度成長期ならそれでもよかったでしょうけど、今はそもそも雇用がないのですから、「真面目にコツコツ」頑張ったところで報われない、という悲惨な状況だと思います……。

今の「自己責任」って、本当に嫌な使い方されてますよね。
「自己責任」って本来、他人に向けて使う言葉ではないと思うんですよ。
という記事を以前書いたので、よろしければお読みください↓

http://newmoon555.jugem.jp/?eid=110
http://newmoon555.jugem.jp/?eid=127

コメントありがとうございました。
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http://newmoon555.jugem.jp/trackback/147
2010/05/25 11:33 PM posted by: 村野瀬玲奈の秘書課広報室
  「労働者派遣法のおかしな『改正』に反対する集会のご案内 (2010年5月16日、東京で)」の記事でご案内した「全国青年大集会2010」の様子...
2010/06/03 6:13 AM posted by: フェンスのむこう
今、出版界で書籍の売り上げに一番影響力のある人と思っている小飼弾さんの「働かざる
2010/06/23 12:33 AM posted by: 村野瀬玲奈の秘書課広報室
  できれば、前の記事、「税収・社会保険負担の国際比較資料 (財務省ホームページより)」もあわせてお読みください。 「社会保障のた...
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