2010.07.25 Sunday 21:08
大島弓子『バナナブレッドのプディング』から、印象的だった主人公・衣良のモノローグ。
わたし 薔薇の木は大好きだった
でも 薔薇の木から 好きだよなんて いってもらえるなんて
夢にも思わなかった
夢にも 思わなかったわ……

バラ
週末は、大島弓子の『バナナブレッドのプディング』と、橋本治の『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ・後編』中の大島弓子論をあわせて読みながら、号泣するなんてことやってたわけですが。

ちなみに『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』というのは、橋本治がもう三十年以上も前に出した少女漫画論だ。70年代の少女漫画を語るなら、この本を避けて通れまい。

『花咲く乙女たち〜』を読んで号泣っていうの、私は十代のときにも二十代のときにもやってて、自分はまったく成長してないんだなぁとしみじみ思う。っていうか、『花咲く乙女たち〜』で提起されている問題を、今も解決できてないんですね、私は。だからときどき、思い出したようにここに還ってくるんだなあ。

橋本治が『花咲く乙女たち〜』で、大島弓子論に託して語ったテーマというのは、
「鳥は鳥に 人間は人間に 星は星に 風は風に」そして「私は私に」
という、ただそれだけなんですが、「私は私に」というのが、いまだにわからないんです。私には。私は「私に」なれているのだろうか?。
 人は社会に合わせて育って来ました。人は社会に合わせて生きて来ました。人は皆、自分にならずに“社会人”になったのでした。“自分とは何なのか?”それを考えることが出来たのは、ほんの一握りの人間だけでした。それを知ることが出来たのもほんの一握りの人間だけでした。だからまだ、その“社会”はあるのです。自分になる必要など全然ない“社会”が。

 すべてはまだ何も始まってはいないのです。自分になった人間達がどんな社会を作るのか、それはまだ、何一つ分ってはいないのです。
    (橋本治『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』後編より)
橋本治がこう書いてから三十年以上が過ぎたけど、今もまだ「始まったばかり」なのかもしれない。

大島弓子の代表作『バナナブレッドのプディング』の最後は、衣良の姉・沙良の手紙の引用で終わる。ちょっと唐突な終わり方だ。
この作品を読んだ十代の頃、この最後の手紙の言葉が、水のように私の心に流れ込んできて、溢れそうだった。それが湖となって、今も私のなかに残っているみたいだ。

おかあさん ゆうべ 夢を見ました

まだ生まれてもいない 赤ちゃんが わたしにいうのです
男に生まれた方が 生きやすいか 女に生まれた方が 生きやすいかと
わたしはどっちも同じように 生きやすいということはないと 答えると
おなかにいるだけでも こんなに孤独なのに
生まれてからは どうなるんでしょう
生まれるのがこわい
これ以上 ひとりぼっちはいやだ というのです

わたしはいいました
「まあ生まれてきて ごらんなさい」と
「最高に素晴らしいことが 待っているから」と

朝おきて 考えてみました
いったい わたしが答えた 「最高の素晴らしさ」って なんなのだろう
わたし自身もまだ お目にはかかっていないのに

ほんとうに なんなのでしょう
わたしは 自信たっぷりに 子どもに答えて いたんです

    (大島弓子『バナナブレッドのプディング』より)


橋本治はこれを受けて、「ハッピィエンドの向うには、“最高に素晴らしい”何かが待っているのです。」という言葉で、当時としては革新的な評論であった『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』を結んでいる。

「最高に素晴らしいこと」って何なのか、私にもさっぱりわからない。
それとも私は今すでに、「最高に素晴らしい何か」の中にいるのだろうか。

バナナブレッドのプディング (白泉社文庫)      
| ●月ノヒカリ● | その他雑文 | comments(11) | trackbacks(0) |
2017.07.09 Sunday 21:08
| スポンサードリンク | - | - | - |
Comment
2010/07/25 9:53 PM posted by: 緑虫
最高に素晴らしいものは私にほとんど接するようにうすい透明な膜に隔てられてすぐそこにあるのに、その方向を向かないから見えない、気付かない。
と、私の直感が告げました。
意味がサッパリわかりません。

私の直感を刺激したエントリーに感謝です。
2010/07/25 10:10 PM posted by: mahamaha
橋本治も大島弓子も大好きです。『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』とても懐かしい。

わたしはいいました
「まあ生まれてきて ごらんなさい」と
「最高に素晴らしいことが 待っているから」と

ああ、とても良い。
とても 美しいフレーズです。

タゴールの美しい詩を思い出しました。

今の私は心がとても擦り切れているので、貴女様(月ノさん)のブログから滋養のあるソーマを頂いているようです。

私は何度も絶望して生きてきたけれど、その苦しみの後に静かな想いが心の中に生まれてきて、「生は美しく甘美なものだ。」という声が聞こえます。

今日は湯河原に行って大きくて美しい蝶を数匹見ましたよ。
2010/07/27 11:25 PM posted by: 月ノヒカリ
☆緑虫さん

こんばんは〜。

>その方向を向かないから見えない、気付かない

たぶん私もそうなんだと思います。
このエントリで直感が刺激されたのなら、緑虫さんはかなり少女の感受性をお持ちの人だとお見受けしました(笑)


☆mahamahaさん

こんばんは〜。
橋本治と大島弓子、両方とも好きっていう方に来ていただけて、嬉しいです!
両者とも、今時の若い衆にはあまり馴染みがないかもしれませんが。

>タゴールの美しい詩
タゴールは有名な詩人ですが、私はよく知らなくて……どんな詩だったんでしょう?

「最高に素晴らしいこと」って、意外とすぐ近くに見つかるものかもしれませんね。
今年はあまり蝶々は見かけないのですが、百日紅の花が咲いているのを見ました。

絶望や苦しみを通り抜けてきた人だけが、本当に美しいものに触れることができるのだと、私は思います。

当ブログではたいしたことは書けませんが、mahamahaさんにとって、ちょっとでも休息できる場所になれたのなら、幸いです。


お二人とも、コメントありがとうございました〜。
それでは、またお会いしましょう♪
2010/08/02 8:20 PM posted by: みそカツ
 月ノヒカリさん

 張り切って、コメントしに来ました。
 頭の良い方々と、お話するのはとても刺激になります。

mahamahaさんのおっしゃった、タゴールの詩。

 私は

「すべての嬰児は
神がまだ人間に絶望してはいない
というメッセージをたずさえて生まれて来る」

を思い出したのですが、同じじゃないでしょうか。

「私」って、難しいですね。
 どこかから、ふと湧き出てきた無明の道理を自分と思い込み、「自分の気持ちを大切にしなければ。自分の気持ちに嘘はつけない」と自分を騙し、他人をも騙す。

そうではない私を見つけられたら、めでたいことだらけではないかしゃん。

 昨夜3時間しか寝てないのに、ジェムソンをロックで飲みながら書きなぐってしまいますた。

では、また。

2010/08/03 12:04 AM posted by: 月ノヒカリ
みそカツさん、はじめまして。

なんかスゴイ量の拍手コメントありがとうございます(笑)
拍手コメントには、また後日レスさせていただきますね。

>すべての嬰児は
>神がまだ人間に絶望してはいない
>というメッセージをたずさえて生まれて来る

ああ、近いかもしれませんね。
大島弓子作品には、「神」という宗教的な概念は出てこないんですが、深いところでつながっているのかもしれません。

>「私」って、難しいですね。

こういう悩み、昔は思春期特有のものと思ってましたけど、何歳になっても納得いく答えは見つからなかったです。私には。

ブログも読ませていただきました。
ネット上で、明川哲也さんのファンにお会いしたのは初めてです。
応援してますので、続き書いてくださいね!

あと、ちゃんと寝てください(笑)

コメントありがとうございました〜。
2011/11/10 9:55 PM posted by: Owl
わかった!わかりました。月ノヒカリさんのブログにどうやってたどりついたか。今元気がなくて(元気がないと、月のノヒカリさんのところによくくるのです。月ノさんのブログを読むと慰撫されます)あちこちを再読させていただいていたのですが。これです!花咲く乙女たちのキンピラゴボウ!たぶんこれで検索して、ここにたどり着きました。私は橋本治さんのこの本のもとになる記事が連載されていた、だっくす、とか、ぱふ、というマンガ評論雑誌を熱愛していた時期がありました。大島さんのバナナブレッドも大好きでした。竹宮さんの風木、も、萩尾さんのトーマも。山岸さんも好きです。また書きます。おじゃましました。
2011/11/10 9:58 PM posted by: Owl
上記お名前書き間違えてごめんなさい。月ノヒカリってカタカナと漢字のミックスがとても素敵なのに。
2011/11/12 10:55 PM posted by: 月ノヒカリ
Owlさん、こんばんは〜。

おお、『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』で来てくださったのでしたか!
昔はマンガ評論は少なく、少女マンガ評論はもっと希少でしたよね。
なので、あの本はズシンと来ましたね〜。

私も「ぱふ」は知ってましたが、ちゃんと読んだことはなかったです。
24年組の最盛期は、少女マンガの黄金時代だと思うし、批評したくなりますよね。
同じ漫画を好きな人に来ていただけて嬉しいです!

あと、名前はよく間違えられるので、あまりお気になさらず。
たぶん「月ノヒカリ」って一回の変換では出てこないんでしょうね。

私も元気いっぱいなタイプではないのですが、だから波長が合うのかどうか、元気のない人に喜んでいただけるのはビックリするやら有り難いやら、です。

コメントありがとうございました〜。またお越しください♪
2017/04/07 7:07 AM posted by: くろ
コメントしていいのかものすごく迷ったんですけど…

私は、大島弓子大好き。

橋本治大っ嫌い。富沢さんはこいつに騙された、と思っている者です。

私は私、って。
私は人間でしょ。
人間は人間、で終わり。
完全に余分な付け足しで、ここが騙しですよ。

少なくとも私はそう思います。
大島弓子はそんなこと言ってないんじゃないですか?

ちょっとわけわかんなかったらごめんなさい。

機会があったら『四月怪談』という映画、見てください。
私は200回くらい見ています。
で、これからも見続けて、最終的に夏山登になりたいと中学生くらいから思い続けています。

それでは、お元気で。
気分悪くなったらごめんなさい。
あくまで私の考えですからあんまし気にしないでくださいね。
ではでは。

2017/04/07 7:06 PM posted by: くろ
補足です。

すごいこと書いちゃった&綿の国星だけ読んでない
…ということで、買ってあった文庫を見ました。
谷山浩子さんの解説に劇場映画の挿入歌を書いたこと、そしてそれは『鳥は鳥に』という歌だったことが書いてありました。
実は、このアニメを私は大好きだったお姉さんみたいな小学校の担任の先生に連れて行っていただいたのでした。だから、その時初めて大島弓子を知りました。
でも、はっきり言って映画はよくわからなかった。
だから今まで読まないようにしていたのです。
大好きな先生の好きな漫画がわからないと残念だな、と思って。
今からゆっくり読んでみます。

鳥は鳥に 谷山浩子

少しずつおとなになる 悲しみを かぞえるたびに
鳥には鳥の 名前がある 鳥は知らない わたしの名前
いつの日か みんなひとつになれるまで
鳥は鳥に 人は人に それぞれの時
風は風に 星は星に それぞれの夢
いつのまにおぼえていた 背中をなでる こんな淋しさ
抱きしめるあなたの手がわたしの手ではないということ
いつの日かみんなひとつになれるまで
鳥は鳥に 人は人に それそれの時
風は風に 星は星に それぞれの夢



ではでは。
2017/04/09 9:59 PM posted by: 月ノヒカリ
くろさん、こんばんは。

えっと、「すごいこと書いちゃった」とのことですが、どの辺が「すごいこと」なのか、よくわからなかったです。
「橋本治大っ嫌い」の部分でしょうか?
橋本治を嫌いな人がいても当然だと思いますし、そう言われても、私は特に何とも思わないです。
私は橋本治の影響を受けていますが、彼の熱心な読者だったのは二十代までですし、橋本治に限らず、「誰かの影響を受ける」ということは「呪い」になる面もありますし。
富沢雅彦氏も、橋本治の影響を受けていたのでしょうか。私は「おたくに死す」でしか富沢氏を知らないのですが。

大島弓子の「四月怪談」は、大島作品の中でもかなり好きな、もしかしたら一番好きかもしれない作品です。
映画については、一度TVで見たような…? よく覚えていないのですが。
私は、何度か死にかけるレベルの苦痛を通り抜けてきたので、「生き返った後の初子のように生きたい」と思いつつ、生きてきました。
これはこれで、いい面も悪い面もありますが。

私は、このブログにコメントされる方の性別には特にこだわりませんが、コメントの内容から推察するに、くろさんは男性じゃないかと思うんですけど。
そうだと仮定して、レスしますね。

少なくない数の女性が、「男性から人間扱いされていない」と感じているということ、事実としてあるのです。
ツイッターその他ネット上でも、女性がそういう発言をするのを、たびたび目にしてきましたし、私自身もそう感じたことは何度もあります。

そういった齟齬を、女性の立場から、男性にも理解してほしいと願いつつ、過去に書いたエントリがあります。
http://newmoon555.jugem.jp/?eid=435
http://newmoon555.jugem.jp/?eid=433

後者のエントリについては、過去のこの事件についての、読者さんとのやりとりです。
参照: http://www.j-cast.com/2014/06/20208293.html

お時間のあるときにでも、お読みいただけると嬉しいです。
コメントありがとうございました。
name:
email:
url:
comments:
Trackback
http://newmoon555.jugem.jp/trackback/171
Search
Profile
Category
Recommend
Recommend
私の幸福論 (ちくま文庫)
私の幸福論 (ちくま文庫) (JUGEMレビュー »)
福田 恒存
たとえ不幸のうちにあっても、私たちが「幸福である」ために
Recommend
新版・小説道場〈4〉
新版・小説道場〈4〉 (JUGEMレビュー »)
中島 梓
わが人生の師。全4巻
Recommend
敗北からの創作
敗北からの創作 (JUGEMレビュー »)
明川 哲也
9・11テロ後「敗北」した私たちにできる「創作」とは?
Recent Comment
Recent Trackback
Links
Admin
Calendar
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< July 2017 >>
Latest Entry
Archive
【WEB拍手】
応援してくれる人、拍手ポチッと押してね↓↓↓
↓ブログ主に小銭を!
Analytics
Sponsored links
Mobile
qrcode
無料ブログ作成サービス JUGEM