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2011.02.23 Wednesday 22:57
不覚でした。
全国のバレエファンを魅了し、手塚治虫文化賞まで受賞した傑作『テレプシコーラ』の完結巻が発売されていることを、発売日から2ヵ月経つまで気づかなかったとは!
慌てて買った完結巻。出遅れたけど、すんごく楽しめました。

◎第1部のあらすじ(全10巻)
バレエ教室に通う六花(ゆき)ちゃんは、踊り手としてのテクニックは今ひとつだけど、コリオグラファー(振付師)としての才能の片鱗を見せている。(本当はもっといろいろ事件があるんですが、未読の方のため割愛。)

◎第2部のあらすじ(全5巻)
六花は若手ダンサーの登竜門「ローザンヌ国際バレエコンクール」に挑戦中。

コンクールの結果とかは、ネタバレになるのでここでは書くまい。
この巻を読んでビックリ驚いたこと。
最後の方でちらっと出てきた、ローザンヌ予選のための、六花ちゃんが自分で振り付けた小作品のタイトル。
意表をつくそのタイトルは、なんと「引きこもり」。
―――箱の中でポーズをとるだけなんだけど、なんかドキドキした。こういうバレエ作品が実際にあるなら、見てみたいなあ。

あと、コンクールの審査委員長で、六花ちゃんを評価したJ・N氏というのは、有名な振付家のジョン・ノイマイヤーがモデルみたいですね。
YouTubeで動画を漁ったら、この動画にノイマイヤー氏が登場しますが(4:25あたりから)、漫画のN氏にそっくり。
日本では、バレエといえばいまだに「白鳥の湖」とか「くるみ割り人形」とかクラシック中心な感じだけど、動画を見るとコンテンポラリー作品の方に魅力を感じるなあ。YouTubeでは、ノイマイヤー振付の「月に寄せる七つの俳句」とか、漫画でローラ・チャンが踊った「ノクターン」の動画もあった。これはぜひ劇場で生で見てみたいですね。

完結巻を読んだら、前の巻まで遡って読み返したくなって、結局全巻読み返すことになりまして……しばらくどっぷり『テレプシコーラ』の世界に浸っておりました。
以下は全巻読んで、改めて振り返っての感想。ネタバレしまくりなので、未読の方はご注意を。

   *   *   *   *   *   *   *   *

第1部全10巻、第2部全5巻を改めて読み返してみて、六花(主人公)の視点で読むと、いいラストだったと思うし、満足のいく結末だった。
でも他の登場人物、例えば、千花(ちか・六花の姉)や空美(くみ)の目線で読むと、釈然としないことが多すぎる。

そもそも私、第1部の最後で、千花ちゃんが自殺するという展開はすごくショックだったんだよね。
バレエ命だった千花ちゃんが、膝の怪我をしたのが5巻。そこから延々、何度も手術を受けて、リハビリも頑張って、それでも治らない。その展開に、ずっとハラハラしてたし、胸が痛かった。「作者マジで鬼だろ!」と言いたくなった。

千花は、しっかり者で完璧主義の優等生。決して弱音を吐かない。しかも学校で陰湿ないじめにあっていたことがほのめかされているけど、彼女は誰にも相談しなかった―――こういう性格って損なんだよ。うまくいってるうちは耐えられても、心が折れたときに乗り切れるものなのか。
バレリーナになることだけが夢で、それだけを胸に、「いじめた奴らを見返してやる」という強い心で頑張ってきた子が、そのたった一つの夢を奪われたとき、どうやって立ち直るのか。
私はそれを見てみたかった。

でも千花は自殺してしまった。
六花は、姉・千花の死という辛い経験を経て、強くなる―――という第1部のラストを読んだとき、ちょっと怖い疑惑が浮かんできた。
山岸凉子という作家は、計算された伏線を張る人だ(と橋本治の『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』にも書いてあったけど、私もそう思う)。
だから、もしかしたら、千花の自殺は、最初から決まっていた設定ではないのか。千花というキャラクターは、最初から六花の踏み台になるために生まれてきたのではないか、という疑念。
だとしたら千花が可哀想すぎる。そうではないと信じたいけど。

あともうひとり、家は貧乏だけど、バレエの超絶テクニックを身につけている空美(くみ)ちゃん。すごく印象的なキャラクターだったのに、第1部の3巻で消えちゃって、それが第2部に登場したローラ・チャンと同一人物なんだろうな、ということがほのめかされているのですが。
空美ちゃんは、第1部では虐待されてて、しかも児童ポルノの被害者だったわけで、その後どういう経緯があって中国系アメリカ人になったのか、はっきりしない。すごく気になるけど、まあその辺はミステリアスなままでもいいのかもしれない。

空美(=ローラ・チャン)は、パリ・オペラ座からの誘いを蹴って、六花と同じノイマイヤーの学校に留学してきた―――というところで終わっているので、それもまた「うわーこれからどうなるの?」という、不完全燃焼なモヤモヤ感がある。
ローラ・チャンは、六花の振付けの才能に魅かれてくっついてきたのか、はたまた別の理由があるのか……謎だ。
これから先、六花が振付けをして、それをローラが踊ることになったら面白いだろうなあとか、想像力をかき立てられてしまう。

というわけで、「振付家として活躍する六花を見てみたい」=「ぜひ続編を読みたい!」という気持ちになるのですが……余韻を残すこの終わり方でいいのかもしれないな。
というのも私は、かつてグイン・サーガという長編小説に百巻以上、二十年近く付き合ったあげく、完結しなかったという苦い経験を経てきたので……ブログ主も大人になりました(笑)

長い「物語」が終わることには、大きな感動がある。その一方で、好きだった分だけ、登場人物に愛着を抱いた分だけ、終わることに寂しさが募る。
だから最近は、物語はあまり「キレイな終わり方」をしない方がいいのかもしれないなあ、と考えるようになった。
ちょっと消化不良だけどね。それでいい。

まあそんな感じで、無事完結したので、バレエ漫画とか山岸凉子が好きな人は、イッキ読みできるチャンスです。本気で面白いです。

   舞姫(テレプシコーラ) 1 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)  テレプシコーラ/舞姫 第2部1 (MFコミックス―ダ・ヴィンチシリーズ)
| ●月ノヒカリ● | 漫画感想 | comments(2) | trackbacks(1) |
2020.09.12 Saturday 22:57
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Comment
2011/02/27 11:08 PM posted by: 村野瀬玲奈
私のブログにいただいたコメントにお返事する代わりに、こんな記事に反応してしまいます。

自分の知らない作品についての記事を読んで引き込まれたら、それはきっと素晴らしい(私にとって、ですが)作品なのだと思っています。私はこの漫画は知らなかったのですが、読んでみたくなりました。

漫画というのは、作者や読者の希望を乗せて作られるものだと思っていますから、何らかのハッピーエンドになることが多いのでしょう。だから、きれいな終わり方をしない時に消化不良のような感じが残りますね。だけど、それもまた人生です。笑

月ノヒカリさんにはこういう記事をもっと書いてほしいです。
2011/02/28 12:37 AM posted by: 月ノヒカリ
玲奈さん、こんばんは〜。

そう、『テレプシコーラ』は名作なんですけど……この記事では思いっきり第1部のネタバレをしてしまいましたから、未読の方には申しわけないことをしました。

バレエが好きな人なら、文句なしに楽しめます。
そしてバレエに詳しくない人がこの漫画を読むと、バレエを観たくなります。

多くの読者はハッピーエンドを望むものですから、読者の希望通りにお話をつくると、たいていハッピーエンドになりますね。
でもそれがいいかどうかは別じゃないかなあと思います。
ハッピーエンドが約束されたお話を読むのは、安心感がある一方、もの足りなさを感じます。

ということをリアルに語り合える友達がいないので、ブログに書くのですが、ネタバレすると未読の人の楽しみを奪ってしまうなあ、というジレンマがありますね〜。

記事を読んでくださってありがとうございました。
『テレプシコーラ』、どっかで見かけたら手に取ってみてください。
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2011/02/26 1:57 AM posted by: マダムNの覚書
 [E:danger]以下、ネタバレを含みます。   テレプシコーラ第2部が、第
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