2011.04.18 Monday 23:14
田垣 正晋
明石書店
¥ 2,520
(2006-08-28)
コメント:「軽度障害者どっちつかずのジレンマを語る」

ツイッターを見ていると、たまに「拾い物」をすることがある。
この本も、ツイッターのタイムラインに流れてきたものだ。

タイトルを正確に記すと、『障害・病い「ふつう」のはざまで 〜軽度障害者どっちつかずのジレンマを語る』というもの。
読んでみたら、すごく共感できるところがいっぱいあった。
学術書ではあるけれども、文章はそんなに堅くなく読みやすい。
この本の7人の執筆者のうち4人が軽度障碍の当事者、ということも関係しているのかもしれない。
(この本では「障害」と書かれていますが、ブログ主はあくまでも頑固に「障碍」と表記します。理由はこの記事に書きました。ただし、本からの引用部分については原文のままとします。)

この本の各章で取り上げられている「軽度障碍」は、知的障碍、精神障碍(統合失調症)、先天的な顔の変形、高次脳機能障碍、軽度発達障碍、慢性疾患(慢性腎臓病)である。詳しくは、次回書く予定。
どれも他人事としてではなく、私も当事者として共感しつつ読んだ。

「軽度障碍者」とはどのような人を指すのか。田垣正晋氏は次のように定義する。
一つは、障害者手帳を交付されていない(行政は認めていない)けれども、つらいこと(障碍)があるという状態。
または、障害者手帳を持っている中での「軽度」。
この二つの場合、「どっちつかずのつらさ」がある、と田垣氏はいう。
「私は障害があるから何々ができない」と自ら言ったり、あるいは逆に「貴方は健康だから何々をしなさい」と他者に言われたりした場合の違和感である。福祉サービスとのかかわりで言えば、「この程度の障害で、福祉を受けていいのか」と自ら思ったり、他人に思われたりすることである。
 (田垣正晋『障害・病いと「ふつう」のはざまで』P.54)
ここを読んだとき、「それ、まさに私がずっと思ってたことだ!」と膝を打った。

私がこれまで罹った病気を列挙すると、アトピー、乳癌、子宮筋腫(他にもすぐに熱を出す虚弱体質や、疲れやすさといった症状もあるが)etc.だ。これらの病気は、どんなにつらい症状があっても公的には「障碍」とは認められていない。現実には、病気のせいで働けない人もいるんだけど(実際、このブログには「癌で働けない」とか「アトピー 困窮」という検索ワードで来る人もいる)。今のところ患者団体を除いては、特に公的支援があるわけではないのが現状だ。

私の抱えている病気の中で唯一、公的に「障碍」と認められているのは、統合失調症だ。
え〜と、私は今まで、自分が精神疾患で精神科に通院していることは何度か書いたけど、病名は明かしていませんでした。それは、自分の中で葛藤があったからだけど、今回はっきり書きます。
私は、精神科で「統合失調症」という診断をされている。
これはやっぱりちょっと特殊な病気だと思うし、病気について説明するのは簡単ではないので、今は触れない。
ここで触れたいことは、私は統合失調症患者の中では、医師から見れば「軽度」らしい、ということだ(自分ではとてもそうは思えないんだけど)。

話をこの本の流れに戻すけど、軽度障碍者の場合、見ただけでは「障碍者」とわからないことが多い。だから、障碍にかかわるつらさ、不自由さが他人に伝わりにくい。

そこで、頑張って「ふつう」を目指すと、無理が生じる。「ふつう」の人にはできるけど自分にはできないことについて、「努力が足りない」「やる気がない」という評価をされる(あるいは、自分でそう思い込んでしまう)。
一方で、障碍をカミングアウトした場合、好ましくない同情や詮索をされたり、あるいは「差別」もあるかもしれない。
障碍のカミングアウトには、メリット・デメリット両面がある。とりわけ就職面接のとき、その悩みが顕在化する。そのはざまで悩むのが「軽度障碍者」なんだと思う。

これは、例えばずっと車椅子生活をしている重度障碍者とは、まったく別の悩みだ。
そういう「自分は障碍者と言えるのかどうか、どっちつかずのジレンマ」を言葉にしてくれた本は、これまで他になかった。
そういう意味で、この本は私にとってすごく画期的な書だ。

私もつねづね、「健常者/障碍者」という二文法では捉えきれないものがある、と考えていた。
この本は、「軽度障碍者」というカテゴリを示すことで、「障碍が軽い人には軽い人なりの悩みがある」と言ってもいいんだ、と教えてくれた。

自閉症スペクトラムという概念がある。自閉症と健常者をはっきり区別するのではなく、連続体として捉えたモデルだ。
それと同じように、「障碍者スペクトラム」みたいな考え方が普及してくれればいいと思う。
イメージとしては、下の図のような感じ。
障碍者スペクトラム
ただ、やっぱりどこかで線引きはしなければならないんだろうけど、どこで線引きをするのか、それはデリケートな問題ではなかろうか。
この本で田垣氏は、
「軽度障害」を、障害者手帳や日常生活動作といった、わかりやすい基準で決めることを慎み、オープンエンドな、開かれたカテゴリーにしておくべきである。(P.68)
と書いているが、同時に次のように述べている。
「めがねをかけている人も軽度障害者」であるとか「軽度障害者の悩みは、健常者にもある」といった発想は慎むべきである。(P.68)

めがねについては、哲学者の森岡正博氏が書評で、自身の経験に基づき、「めがねをかけている人も軽度障害者」であると言ってよいケースはあるのではないだろうか、と反論している。私は、森岡氏の主張はもっともだと感じる。

軽度障碍者の悩みは、「障碍者の権利を主張する」という従来の障碍者運動には馴染まないものも多い。
でも、やっぱり何らかの配慮はあってほしい。

ずっと思っていたことをこの機会に言わせてもらうと、失業・ニート・ひきこもり・ホームレス・自殺といった問題の背後には、「軽度障碍者」問題とリンクする部分があるのではないか。
労働市場にも福祉にもアクセスできない」軽度障碍者が困窮している例は、実は少なからずあるのではないか。
障碍がある故に、仕事が見つからない、働けない。でも障碍が「軽度」だから、あるいは公的に「障碍」と認められていないから、福祉制度も利用できない。
そうやって社会から排除されている人たちが、可視化されていないだけで、実はかなりの数存在するのではないか。
これは私自身の問題として、ここで提起してみたい。

次回は、この本の各章それぞれについて簡単に感想を書く予定。

| ●月ノヒカリ● | 読書感想 | comments(5) | trackbacks(0) |
2017.12.12 Tuesday 23:14
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Comment
2011/04/19 1:08 AM posted by: しら
はじめまして。
先日精神科にて障害年金をダメもとで申請してきたばかりです。
不安障害と対人恐怖が強いので働けておらず、「貰う資格は十分あるんだけど病名的にムリだろうね、、、」ということでした。
まあ、分かってましたけどね。
この「どっちつかずさ」については常に思う所がありました。
自分より社会生活に支障のない統合の方がたまにおられるのですが(ブログ主のことぢゃないよ)、年金をもらっているのを見るとすごく複雑な思いがあったりします。
(対人関係が築ける、バイト、旅行できる、、など)
見えない部分での闘いや苦労はあると思うのですが、それなら自分も同じなので、、、
紹介にあった本も読もうと思っています。
この回の続きも楽しみにしています。

2011/04/19 8:42 PM posted by: mahamaha
お久しぶりです。
(橋本治「花咲く乙女たちのキンピラゴボウ」の記事にコメントした記憶あり。)
私も結局「統合」と診断されました。
退職せざるをえなくてこれからどうするのか思案しております。急性期を過ぎ、まさに「どっちつかず状態」。
障害者年金はまったくあてにしてません。
とりあえず思考能力が回復したので、月ノヒカリ様のブログ読者に戻ります。
2011/04/24 11:41 PM posted by: 月ノヒカリ

☆しらさん

はじめまして。

公的な「障害者手帳」とか「障害年金」というのは、やっぱり病名に大きく左右されるのでしょうか。
私はあまり制度のことに詳しくないし、年金ももらっていないのですが、「バイトも旅行もできる人が年金をもらえる」という話は初めて聞きました。ちょっとビックリです。
まあ、年金だけで生活していくのは難しいと思うので、バイトはせざるを得ないのかもしれませんが。
それに「年金をもらってる人は旅行も行ってはいけないのか?」と考えると、う〜ん、と考えてしまうのですが。

しらさんの複雑な思いもわかります。
今の福祉制度では、「医学」に基づいた画一的な判断しかない状態ですね。
私も、精神疾患だけならバイトくらいはできたかもしれませんが、他の病気もあるので難しいです。
精神・身体疾患全体を見てほしい、という願いはあります。が、実際のところ、病院でも公的機関でも、そんな場所はないのが現状です。
その人の置かれている環境や人間関係、「困っていること」全体を見る福祉=「障碍の社会モデル」というのも、WHOや北欧、アカデミックな世界ではすでに言われているようですが、日本の制度に反映されるのには、まだ時間がかかりそうですね。

精神疾患は「権利」を主張するのが難しい病気だと感じています。
それでも「労働市場にも福祉にもアクセスできなくて困っている」ということは、もっともっと語られてもいいのではないか、と思います。

お互い焦らず、主張したいことを主張していけたらいいですね。



☆mahamahaさん

お久しぶりです〜。
また当ブログに来ていただけて、嬉しいです!
去年でしたか、休職されるというコメントをいただて、心配していたのですが……急性期を過ぎたとのこと、ひとまず良かったです。

確かに、急性期を過ぎたら「どっちつかず状態」になりますね。
私は再発もしていますし、他の病気もあるので無理はできないなあ、という感じですが。
私も年金は当てにできないので、どうしたものかと思ってます。

mahamahaさんも、どうかあせらず、無理なさらず、療養してください。
このブログも、たいしたことは書けませんが、ちょっとでもご参考になれば幸いです。



お二人とも、コメントありがとうございました〜。
レスが遅くなってスミマセンでした。
それではまた!
2012/10/12 2:58 AM posted by: らくだ
はじめまして。
「「コミュニケーション能力がない」と悩む前に」
のリンクから来ました。
私はアトピー(中程度)、双極性障害(医師による診断)、アスペルガー症候群(医師による診断)、という軽度のしょうがいと言えるものを複数もっています。こちらのブログでこの本を知ることができていい出会いだなーと思っています。(まだ本自体は読んでいませんが)

「自殺について」のひとつめのエントリーを読みました。時間がないので書きませんが、自分も同じ経験をしたなあと読んでいて共感できるところがありました。

また他のエントリーを読みに来ます。

twitterアカウントは公開していませんか?
2012/10/13 12:25 AM posted by: 月ノヒカリ
らくださん、はじめまして。

ブログ記事読んでくださってありがとうございます。
ブログ主自身も「コミュニケーション能力がない」と悩んでいる人間なので、本のレビューも決して「客観的」には書けないのですが……。

この本もツイッターで知って、軽度障碍者の悩みを取り上げてる本って珍しいなーと目を惹かれたものです。
「軽度」でも病気が複数あると、それぞれ別の病院にかからなければならなかったり、医師もまた専門外の病気については理解してくれなかったりで、大変なこともありますよね……。

らくださんの状況はわかりませんが、アトピーや精神疾患については、症状の重いときと軽いときの落差が激しくて、「軽度」というのが適切なのかどうなのかも悩むところです。

自殺についてのエントリは、記事中にも書きましたが、ブログ主がそれを吐き出す場がどこにもないのでここに書いてるわけで……その辺を汲んでいただければ幸いです。

>twitterアカウントは公開していませんか?

プロフィールにも書いてありますが、newmoon555です。(ブログの右柱にTwitterへのリンクボタンが貼ってあります。)
最近はあまりつぶやいていないのですが、お気軽に覗いてみてください。

コメントありがとうございました。またいつでもお越しくださいませ♪
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