2012.09.15 Saturday 23:43
水城せとなと言えば、『失恋ショコラティエ』(現在5巻まで)が有名で、これもチョコレートへの愛に溢れた、大好きな漫画なんだけど。
にぎやかな表紙絵に釣られて買ってみた『脳内ポイズンベリー』、こちらもなかなかに面白かった。

表紙に描かれている5人―――右上から時計回りに、ゴスロリ少女、クールな雰囲気の眼鏡イケメン、天然パーマの軽そうな男子、眉間にシワ寄せたお姉さん、白髪メガネの初老の紳士―――驚いたことに、彼らは、この漫画の登場人物ではない。5人は、この漫画の主人公・櫻井いちこの、脳内会議のメンバーなのです!

この作品は、おそらく漫画史上初の「脳内会議実況中継マンガ」。
ストーリー自体は、それほど目を惹くところはない。出だしは駅のホーム。主人公・いちこが、飲み会で一度会ったきりのちょっと気になる男性に、声をかけるべきか、かけないでおくべきか、迷うところから始まる―――のだけど。
そこでいきなり「脳内会議」がはじまっちゃうんですよ。5人の脳内会議メンバーが、多数決をとるシーンが。「声をかけた方がいいと思う人!」「かけない方がいいと思う人!」って。こんな漫画アリ!?

「脳内会議」と言えば、過去の水城せとな作品にも、それに近い場面があった。
BL好きには有名な『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』シリーズ。主人公・恭一が葛藤するシーンで、恭一の頭の中で「黒恭一」と「白恭一」の二者がせめぎあうのだ。
白恭一「男とデキちゃってもまあいいやとか考えてるのか!?」
黒恭一「こーなっちゃったもんはしょーがないじゃん。楽しもうよー」
という具合。こういう「自分の中で天使と悪魔が争う」というパターンは、わりとよく見かける。

しかしこの『脳内ポイズンベリー』はさらにその上を行く。
なんと、脳内会議のメンバー5人にそれぞれ名前がついていて、役割分担まで決まっているのだ。
上記と同じく、表紙イラスト右上から時計回りに、ハトコ(瞬間の感情)、吉田(議長)、石橋(ポジティブ思考)、池田(ネガティブ思考)、岸(記憶・過去を振り返る思考)、という具合に。

この脳内会議、主人公のいちこは自覚していない。ただ読者だけが、のぞき見ることができる。いちこの発するひと言の背景に、どんな脳内会議が繰り広げられているのか―――読者だけが知っている。

もし他人の「脳内会議」をのぞき見ることができたら―――誤解は減るのだろうか? それとも幻想が壊れて失望するのだろうか?
先入観や誤解に満ちた他人とのコミュニケーションは、めんどくさくて、やっかいで、難しい。でもそれがまた面白いんだよね―――と水城せとなは感じさせてくれる。

2巻の著者あとがきには、「脳内会議そのものがアイデンティティなのだと思う」という、ちょっと興味深い人間観が書かれていた。そして「脳内会議がなければ、人はただ物を見て聞いてペロッと答えを即出すだけの、単純な機械になってしまう」とも。

「脳内会議」って、きっと多くの人がひそかにやってることだろうけど……ちゃんと「自覚」して脳内会議をする人は、少ないかもしれない。まして、それを漫画化しちゃう、可視化しちゃうというのは、なかなかに画期的だと思う。

これが30年前なら、「脳内会議実況マンガ」なんて受け入れられなかったのではないだろうか。あるいは、病的なレッテル(多重人格みたいな)を貼られていたかもしれない。

でも今なら、「〈自分〉というものが、複数のキャラによる脳内会議で成り立っている」という感覚は、多くの人に受け入れられるはずだ。
ポジティブ思考とネガティブ思考では、「どちらが本当の自分か?」と考えても、答えは出ない。瞬間的な感情や動物的な反応、思い出したくない過去、そういったものすべてひっくるめて〈自分〉だという感覚は、今ではむしろ「健全」だとすら思う。

それでもこの漫画は、少年誌や青年誌からは出てこなかっただろう。モノローグや内面描写の多い少女漫画の伝統があればこそ、世に出た作品ではないだろうか。(この漫画の「脳内会議」は、主人公の心理描写の代替物に見える。)

蛇足ながらもう一点、この漫画の魅力を。
出てくる食べ物が、すっごくおいしそうなのだ。
『失恋ショコラティエ』もまた、読むと無性にチョコレートが食べたくなっちゃう漫画なんだけど、『脳内ポイズンベリー』の食事シーンもポイント高い!
とりわけ一巻に出てきた「タンドリーチキン」。
いつも紛糾する脳内会議のメンバーも、「タンドリーチキンが食べたい」というところでは全会一致(!)。欲望に対しては正直なのね……。いちこもまた、幸せそうな表情で食べるんだよねーこれが。
「食べ物をおいしそうに描くのが上手な漫画家」と言えば、第一によしながふみを思い浮かべるんだけど……水城せとなもなかなか。

あと、出てくる小物もさりげなく可愛い。小龍包のストラップ(いちこの手作り)とか、カップケーキのピアスやペンダントなんか、実際に売ってたら欲しくなるだろうなー。

自分はあまり、この手の恋愛モノには共感できないので、ストーリー展開について語れないのは残念ですが……。
主人公の「脳内会議」を可視化する、という設定には―――こういう漫画が出てくることの時代背景も含めて―――そそられます。面白いです。

脳内ポイズンベリー 2 (クイーンズコミックス) ←こちらは2巻      




| ●月ノヒカリ● | 漫画感想 | comments(6) | trackbacks(0) |
2019.10.11 Friday 23:43
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Comment
2012/09/17 2:14 AM posted by: ジェットマグロ
脳内会議…面白そうですな。

共通点は「脳内」というだけでぜんぜん趣が違いますが、
脳内ディベート大会
http://www.faireal.net/articles/1/11/#d90731
2012/09/21 11:31 PM posted by: 月ノヒカリ
ジェットマグロさん、こんばんは〜。
レスが遅くなってスミマセン。

>脳内ディベート大会

そりゃまた壮大な(?)ひとり遊びを考えつく方がいらっしゃるものですね……。
しかしブログ主の脳内会議のメンバーには、必ず「まあどうでもいいか。アイスでも食べよう」とか「もう寝る」とか言い出すのが一人(以上)いるので、ディベート大会は成立しないと思いますw

あと、ジェットマグロさんのブログも読ませていただいてますよ〜。
なかなかコメントするタイミングがつかめないのですが……骨髄提供の体験談は、読みごたえがありました。
これからもどうぞご自身のペースで更新なさってください♪

コメントありがとうございました〜。それではまた。
2012/09/22 11:47 PM posted by: ジェットマグロ
>なかなかコメントするタイミングがつかめないのですが

むむ、もしかして
「そろそろお付き合いでジェットマグロん所にコメント打っておかないと角が立つかな…?」
なんてことを考えていませんか?
だとしたら、そういうのは私は嫌ですよ。されるのもするのも。

本当にコメントしたいという欲求が生じたときのみ、その己の欲に対して忠実に振る舞うことを私は求めます。
なんか我ながら格好いいと言えなくも無い言葉だな。
2012/09/23 11:47 PM posted by: 月ノヒカリ
ジェットマグロさん、再びこんばんは。

>「そろそろお付き合いでジェットマグロん所にコメント打っておかないと角が立つかな…?」

いや、そこまで考えてませんw
つーか「お付き合いでコメントしなきゃ」と考えちゃうくらいの人付き合いの良さがブログ主にあれば……今ほどぼっちじゃなかったかもしれないなーなんて思ったり。

でも本当に、骨髄提供のお話は、いろいろと考えさせられて、何かコメントしたかったのですが……ここんとこ頭痛やら何やらで文章がまとまらず、ご無沙汰いたしておりますです。
とりあえず、骨髄提供及びその記録を書かれたこと、「お疲れさまでした!」。


>本当にコメントしたいという欲求が生じたときのみ、その己の欲に対して忠実に振る舞うことを私は求めます。

素晴らしい!!
今後ブログ主の座右の銘にいたしますw
こんだけフランクに言ってもらえるのは有り難いですね〜。

コメントありがとうございました〜。今後ともマイペースでヨロシクです♪
2013/01/26 2:36 AM posted by: きら
このエントリーを見て、気になってしょうがなかったので、今日さっそく青地に顔の並んだ黄色マークのお店で借りてきました♪

コレ!
楽しいデスね〜♪

私もよく脳内会議をする派なので、あるある〜!と共感しながら楽しめました(*´艸`*)
私の脳内には纏め役がいないみたいで。
好き放題、議題が移り変わるため、会議という枠を越えて妄想に突入しがちですが…。
どちらかといえば、きっと主人公よりも、早乙女くんの脳内会議に近いのかも〜!なーんて思いながらも楽しみました(´ω`)

脳内会議をすると、考えが独りよがりになりがちだなぁと改めてきづかせてくれました。
早乙女くんの
「でもそれ頭ん中だけで話し合っててどーすんのよ」
「俺に言ってよ!俺に言ってくんなきゃなにもわかんないって!!」
は深く心に届きました。
そーなんだよね。
そーだけど、聞くのが怖いから、どう聞いてよいのか分からないから結局一人で考えて、行き詰まるんだよね〜なんてのも思ったり。
この辺のハードルを下げられるようになりたいなぁと新たな自分の課題も見つけることができました。

月ノヒカリサンが書いている通り、脳内メンバーのキャラクターが濃くって際立ってて見てて楽しいデスね♪
私にとっては自分の悩みを楽しく受け入れられるバイブルになりそうデス★´∀`★

ステキな本の紹介ありがとぉございます(´∀`☆)
2013/02/03 12:02 AM posted by: 月ノヒカリ
きらさん、お返事が遅くなりスミマセン。
『脳内ポイズンベリー』、気に入っていただけたようで何よりです。
この作家さんは、むしろ『失恋ショコラティエ』の方で有名なので、よろしければそちらもぜひ。
チョコ好きならハマります!

コメントありがとうございました〜。
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