2012.12.08 Saturday 23:23
私がこういう精神疾患についての本を読むのは、やっぱり自分が回復するための手がかりを求めてのことなのだけれども―――この本は、著者自ら「(うつ病について)二冊目に読まれるべき本」と述べている通り、普通とはちょっと違うアプローチで書かれているので、「うつ病」と診断されたわけではない自分にとっても、興味深い内容だった。

社会的ひきこもり』で有名な精神科医の斎藤環先生、今増えている新しいタイプのうつ病を「社会的うつ病」と命名。これまでに培ってきた「ひきこもり」への治療方針が、最近のうつ病患者にも応用できると気づいたことが、この本の執筆につながったらしい。

第一章では、古典的なうつ病像とは異なるタイプのうつ病患者(いわゆる「新型うつ病」)が増えている背景を、社会的な要因を軸に解説している。この部分、患者さんにとっては必要性のない話かもしれないけれども、批評家としても活躍中の斎藤環先生だけあって、説得力も十分、読みごたえがあった。

古典的なうつ病は、「まじめで勤勉、責任感が強い」タイプの人が、それまでの生活を180度ひっくり返したように動けなくなるというものだった。一方、最近増えてきた「新型うつ病」患者は、「遊ぶときには元気だけど、出勤の朝には布団から出られない」など、旧来のうつ病を知っている者からすると「自己中心的なわがまま」に見える。しかし斎藤環は、新型うつ病を「甘え」「怠け」とみなす風潮には警鐘を鳴らす。このあたりは、著者の「ひきこもり」に対するスタンスと近く、好感が持てる。

「仕事中はうつになるくせに、遊ぶときだけ元気になる」という批判については、「ストレスの少ない活動はこなせるが、ストレスが高まると難しくなる」と言い換えると、これはむしろ当たり前のことである。ならば、ある程度元気になったときには、ストレスのかからない「活動」(遊びを含む)をやってもらう方が、回復のためには有意義―――との説明には、なるほどと納得した。

さらに、「(病気の)犯人捜しをしない」というスタンスにも同感できる。
新型うつ病は、軽症なのになかなか治らず、長期化することがある。
そういうとき、社会、家族、個人、いずれに原因があるのか。著者はその「関係性」に着目する。個人、家族、社会のそれぞれにはっきりわかる病理がなかったとしても、個人と家族、個人と社会、あるいは家族と社会といったそれぞれの「関係」が病理をはらんでしまうことがある。たとえ「うつ病」と診断されるのが個人であっても、病んでいるのはその個人だけで、周囲の家族は健康なのだから問題ない、ということにはならないらしい(P.73)。
「なぜ病んだか」を問うよりも、「病をこじらせないためにどうすればいいか」の方が重要だ―――というのが、著者のスタンスだ。

だからこそこの本では、患者本人だけではなく、家族をはじめとする周囲の対応も重視していて、第五章では家族へのアドバイス、第六章では職場の上司へのアドバイスにも頁が割かれている。そこでは、家族もまた治療に参加するという視点―――治療者とタッグを組み、ともに病気と闘う環境づくりを提唱している。
この本をうつ病患者本人が読むのはもちろん、家族の理解を得られないうつ病患者さんは、この本を家族に読んでもらうのもいいかもしれない。
世間一般ではまだまだ「うつ病=甘え」みたいな考えの人が多いけれども、この本を読むと、多少は理解が深まるかも。

この本で中心になっているテーマは「人薬(ひとぐすり)」、つまり「人間関係」がうつ病治療において重要な役割を果たす、というものだ。健全な「自己愛」の回復、身体的な快さの回復といったテーマが中心で、抗うつ薬のような薬剤の話はまったく出てこない。だからこの本は、うつの最悪の時期を脱して、回復期に入ろうとしている人向きの内容かもしれない。

特に印象に残っているのは、第八章にあった、声楽家・佐藤宏之氏のもとで行われている「声楽療法(ベルカント・セラピー)」を紹介した部分だ。旧来の音楽療法とは違い、「歌がうまくなる」という技術的な向上を目指した副産物として、うつやひきこもりに対する治療的な効果があると言う。こちらのサイトに詳しい事例が載っているので、興味のある方はどうぞ。

あと、「自己啓発」の問題点を指摘しているところ(P.227〜229)にも、共感してしまった。ここでいう自己啓発というのは、「ポジティブシンキングを身につけ、コミュニケーションスキルを高め、仕事の能率も上げて成功する」みたいなスタンスのこと。中には「自己啓発的な手法でうつを克服しよう」という内容の本まであるらしいけど、著者はこれを「とんでもないこと」と一刀両断。治療というのは、自己啓発とは対極にあるものだという。
自己啓発的な方法論が有効な人もいるだろうけれども、それは健康度とポテンシャルの高い一部の人に限られるのではないか―――との結論にも納得。

この話に限らず、斎藤環先生の精神科医としてのスタンスについては、私は好感を持つことが多い。
ただ……ここからは蛇足、ブログ主の個人的な感想です。
    *    *    *    *    *

この本で中心になっている「人薬(ひとぐすり)」、つまり「ある程度回復に向かったら、人間関係の中に入っていこう」というアドバイス、一般論としてはよくわかるんだけれども……私は「うつ病」とは診断されていないせいかどうか、素直に頷けないんだよね。

私にとっては、この本の第七章に取り上げられている「人薬が適用できないケース」の方に、よりシンパシーを感じてしまった。一見「新型うつ」にみえるけれども、別の疾患がひそんでいて、治療方針を変えなければならないケースを取り上げた章だ。
とりわけ気になったのは、「アスペルガー症候群」と診断された三十代男性の事例。「新型うつの患者であれば対人接触はプラスに働くはずだが、彼にとっては一貫して対人関係は苦痛と悩みの種でしかない。この場合は、対人スキルを高めようとする方向付けは不適切で、むしろいつまでも周囲に馴染めない自分に自信をなくして、自殺願望を持ってしまうことすらある」(P.220〜223)―――と書かれているのだが、自分はこちらの方に近いと感じてしまう。

ついでに付け足すと、この本の斎藤環は、ネット上の人間関係については否定的だ。「ネット上の対人関係は治療的な効果が弱く、直接会わなければ対人刺激として意味をなさないことが多い」(p.128)と述べている。
ただ、「ツイッターで同じ趣味の仲間を見つけ、オフ会を開くようになった」という例は肯定的に紹介していて、「ネットも使い方次第」ということらしい。
これも常識的な結論だと思うけれども……その一方で、自分のこれまでを考えると、「直接会ってのコミュニケーション」と「ネット上のコミュニケーション」を比較すると、必ずしも「直接会う」方が実り多いとは、とても思えないんだよね。

別の本の話だけど、斎藤環は過去にこんなことも言っていた。
 ひきこもりと非常によく似た現象で、スキゾフレニア、統合失調症(かつての精神分裂病)の問題があります。症状の少ないタイプのスキゾフレニアとひきこもりは見分けがつきません。いちばん見分けがつけられるのは、コミュニケーションに対する態度の違いです。
 精神病性ではないひきこもりには、コミュニケーションによって社会参加したり意欲を取り戻したりという可能性があります。でも、スキゾフレニアの場合、無理にコミュニケーションに参加させると悪化してしまう。そこが大きな違いですね。スキゾフレニアの場合は、ひとつの治療法として「自閉の利用」というのがあります。あえてひきこもらせることで自然な回復を促すのですが、これが有効であり得るのは、彼らにとって通常のコミュニケーションが毒になりやすいからです。ところが、ひきこもりの人にとっては、コミュニケーションの体験がそこから抜け出すきっかけになりやすいんですね。

 (斎藤環 『OK?ひきこもりOK!』P.166)
スキゾフレニア=統合失調症と診断されている私にとって、これは引っかかる発言だ。真意はちゃんと理解できていないのだけれども、対人接触とかコミュニケーションって、もしかしたら自分にとってはマイナスになるのかな?などと悩んでしまう。

「人間関係が大切だ」という話は、頭では理解できるんだけれども、自分の過去の体験から振り返ってみると、単純に「人薬(ひとぐすり)って素晴らしい!」などとは、実感として受け入れられないんだよね。
そう感じるのは、自分の性格なのか、病気(統合失調症)のせいなのか、あるいは他に原因(発達障碍とか)があるのか、はっきりしないのだけれども。

そういう意味で、自分はこの手の本を読むと、かえって悩みが深まるあたり、困ったものだなぁと思う。

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| ●月ノヒカリ● | 読書感想 | comments(5) | trackbacks(0) |
2020.07.30 Thursday 23:23
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Comment
2012/12/10 11:44 AM posted by: 今日のシェフのおすすめロースカツカレー
私も典型的な精神疾患だと思うのでいろいろ調べてみました。

http://www.youtube.com/watch?v=vOM_EiIo6GY&list=PL064A843AC12594ED&index=2

この動画を見続けて腑に落ちるところは、
正常も異常も勝手に決めたことで、異常とかってDNAに刻まれた多様性の創造の一片でしかなく。
それをみんなで受け入れて支えあって行くことに人類が自然の中で調和していくのことだと思うわけで、、、

DNAってこんなわけで
http://www.youtube.com/watch?v=mNagr5xFx8U

すべて欲深い人間が、コントロールしていって、そこはやはり学ぶしかないのだと思います。
弱い立場だからこそ真実を学んで、裏と表を多角的に自分自身で判断していく姿勢がこれからの世の中では求められていき、それが可能となったのがネットだと、可能性を信じています。

まだ、私は触りしかわかりませんが、もっともっと勉強して人が当然に幸せになれる世の中を作る努力をしていきたいです。
2012/12/10 12:05 PM posted by: 今日のシェフのおすすめロースカツカレー
そうそう、何でもかんでも精神病ってする世の中の傾向に対する疑問です。
それは単純に学習が足りない。
世の中のって意味ですね、

僕は月ノヒカリさんの文章を読んで
まったくもって正常だと思うわけで、むしろ世の中の方が異常に感じられて、、、
あ だから僕は異常なのかw

なんでしょうね。。。
正常と異常なんか本来なくて多様性で、そこに線を引くなんか馬鹿げたことだと思います。
2012/12/13 10:41 AM posted by: ベイビーハート
月ノアカリさま へ

同じ境遇に います。

メールそちらに おくりましたので
なにか お話できれば幸いです。
2012/12/15 12:29 AM posted by: 月ノヒカリ
今日のシェフのおすすめロースカツカレーさん、こんばんは。

う〜ん、ネット上のやり取りだけで、精神疾患かどうかなんて、とりわけ素人には判断できませんけど、カツカレーさんは「典型的な精神疾患」には見えませんね。
疑うとしたら、発達障碍(アスペルガーとかADHDとか)の方がありそうですけど……こちらの概念もいま濫用されているっぽいですからね〜。

自分は「統合失調症」と診断されているのですが、これはこれで歴史の古い病気で、調べると面白いです。「人類の歴史と共に始まった」との説もあるくらいで。
参考までに↓
デイヴィッド・ホロビン『天才と分裂病の進化論』
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0684.html
中井久夫『分裂病と人類』
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CA%AC%CE%F6%C9%C2%BF%C6%CF%C2%BC%D4


自分が正常かどうかは自信ないですけど、統合失調症の陽性症状の出てるときは、明らかに「異常」だったと自分でも思いますよw
過去エントリでも少し触れただけで、なかなか説明し難いのですが。
でもあのときも、自分から見ると「自分以外のすべてが狂ってしまった」ように見えましたからね〜。
どっちが正常かって、きっと多数決で決まっちゃうのでしょうねw


ご紹介の動画は、全部は見れてないのですが、確かに過剰な治療も、薬害もあるでしょうね。これは精神疾患に限らない話で、アトピーや癌の治療の際も感じたことです。
西洋医学の「治療」は、QOLよりも「生存」を優先させていて、侵襲が大きいことも多いです。それはそれで間違っているわけではないのでしょうが……疑問を感じることもあります。
精神科の薬には、私も確かに恩恵を受けているけれども(薬のおかげで眠れる、とか)、その代償に「生命力」みたいなものを支払ってるのではないか?という気もしたりして。

精神疾患というのは、医師の診断とかDSMよりも、「本人が苦しんでいるかどうか」という視点の方が重要だと私は思ってますので……。
なので、必要ないなら薬は飲まない方がいいでしょうね。

ところで名前ですが、本日のパティシエのおすすめで、「ほうじ茶プリン」か「抹茶モンブラン」なんてどうでしょう?
単にいま自分が食べたいデザートなのですがw

コメントありがとうございました〜。それではまた。
2012/12/15 12:32 AM posted by: 月ノヒカリ
ベイビーハートさん、はじめまして。
メール拝見しました。
後ほど返信しますので、もうしばらくお待ちくださいね。
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