2013.10.07 Monday 21:54
三宅 乱丈
エンターブレイン
¥ 672
(2007-07-25)

二つの星と三つの民族をめぐる、超本格SFファンタジー長編漫画。

えーとこの漫画、わりと有名だと思ってたんですよ、私。
2007年に1、2巻同時発売されて、すぐに新聞の書評欄に紹介されたし、「ダ・ヴィンチ」のプラチナ本にも選ばれてたし、文化庁メディア芸術祭優秀賞も受賞してるし。

でも先日、最新刊(14巻)を大手書店に買いにいったら、一冊しか置いてなくて。もしかしてこの漫画、今あんまり売れてない…?

確かに、流行りの綺麗系な絵ではないし、世界観も独特で入りづらいし、特殊な用語も出てくるし……で、私も最初の頃は、巻末の用語解説を見ながら、なんとか読み進めてたんだよね。
けど、それをクリアして、6巻まで読んだところで―――ものすごい興奮を味わった。

鳥肌が立つくらい面白い漫画だ。
まだまだ物語は続きそうだけど、14巻まで読むと、かなりストーリー構造が見えてきた。

基本的な構造として、文明社会と未開社会の対立がある。高度な文明を持った社会(カーマ)が、「野蛮な」未開社会(イムリ)を侵略する。
文明社会で育った心優しい青年(主人公デュルク)は、カーマの支配術の残虐さに疑問を抱き、と同時にイムリの人々の素朴さに触れ、カーマを捨ててイムリに身を投じる―――とまあ、ストーリー展開としては王道だろう。
このタイプ(文明社会を捨てて、未開社会を選ぶ主人公)の物語、私は『アバター(映画)』しか思い出せないけど、他にもあるのではなかろうか。
この漫画では、カーマ(支配民族)のドロドロの権力闘争と、イムリ(原住民)の自然と調和した素朴な生き方が対称的に描かれている。『アバター』でも感じたことだけど、この二つの世界は、アメリカ先住民と白人侵略者の関係を想起させる。

設定として独特なのは、支配階級であるカーマが、「侵犯術」という他人の精神を操る力を持っていることだろう。
作者の三宅乱丈には、『ペット』(全5巻)という、イメージの力で他人を操る超能力者を描いた作品がある。とりわけ、超能力で人を「潰す」―――つまり心を破壊するシーンには、妙なリアリティがあり、その凄惨さに気分が悪くなるくらいだった。
「心を破壊される」悲痛な描写は、この作品『イムリ』にも継承されている。カーマには、呪師が言葉を発するだけで、他人を「奴隷化」できる術があるのだ。生き生きと笑ったり怒ったりしていた人間が、何も感じない、うつろな表情の「奴隷」にさせられる。
この「奴隷化」術の行使は、ある意味、血みどろの殺戮シーンよりも陰惨じゃないかと感じてしまう。

ただ、ちょっと興味深いのは、この漫画の最大の悪役(あえて名は秘す)は、その「侵犯術」を使って人を従わせているわけではないところだ。彼は「人を信じなければならないよ」と説く、一見優しげな老人である。「賢者」をはじめ権力の要所にいる者たちは、彼を心から尊敬し、自らの意志で彼に従う。
最大の悪役が、単に力と恐怖で支配しようとする人間ではない、ということ―――そのことが、物語にさらなる不気味さと深みを与えているように思う。

とりわけ私が衝撃を受けたのは、デュルクの師でもあるラルドの存在だ。
ラルドは、カーマの「奴隷化」というやり方に疑問を抱きつつ、しかし無謀な抵抗は封印している。「本当の心」を持つ自分がカーマにいれば、小さくとも何かを変えていけると信じて、苦しみながらもカーマに従ってきた、いわば「穏健な改革派」だ。
しかしそのラルドを、件の悪役は「術で従う奴隷よりも従順だ。本当の心が奴隷化されているのだから」と評するのだ。
事実、ラルドはカーマの支配階級に利用され、能力を搾り取られることになる。それも自ら進んで。
自らの意志で選びとった道が「カーマの奴隷」であるとしたら―――それはもしかしたら、術で心を殺されるよりも、悲しいことかもしれない。

そのあたりの描写がある6巻、そして不自然に無表情だったデュルクの母の過去が明らかになる7巻あたりが、前半のクライマックスだろう。この漫画に対する評価は、そこまで読んでから決めてほしい。

登場人物も魅力的だ。
感情表現が豊かなイムリの人々。とりわけ9巻から登場する、「岩山のイムリ」の女頭領・ニコはめちゃカッコいい! こんな人が頭領なら、ずっとついて行きたくなる。
対するカーマ側で気になるのは、ガラナダとヴィテジだ。カーマの権力の末端にいながら、非人間的なカーマのやり方に対し動揺を見せるシーンに、妙に人間味を感じてしまった。

他にも、双子のイムリが互いの夢を見る設定とか、イムリの古代兵器の謎とか、読みどころはたくさん、書ききれないほどある。
14巻まで刊行された今、改めて1巻から読み返すと―――最初のうち謎だったことが、「ああ、そういうことだったのか!」と疑問が氷解していく心地よさを味わえる。こういう伏線回収の快感こそ、長編作品の醍醐味だろう。

何度でも読み返したくなって、何度読んでも飽きない作品。
これからも、完結までじっくり付き合うつもりです。


イムリ 10 (ビームコミックス) 10巻の表紙は「戦うイムリ」の女頭領・ニコ。惚れる!

イムリ 11 (ビームコミックス) 11巻表紙は、カーマの腹黒い面々(笑)


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