2009.09.17 Thursday 21:09
やっと「のだめ」の感想です。
私は「のだめ」単行本5巻が出た頃から読んできたので、わりと古くからの読者だと思う。
最初のうちは、「クラシック音楽を題材にした、ちょっと変わったラブコメ」くらいにしか思ってなかった。
ピアノの演奏はきらりと光るものがあるけど、変人で汚部屋の住人「のだめ」こと野田恵と、指揮者志望だけどピアノやヴァイオリンの腕もプロ並みの天才・千秋真一との、ドタバタ音大ラブコメディ。

「のだめ」がパリ編に入ってかなり経った後のことだった。
この漫画が、正面から音楽に取り組むことはどういうことかを真剣に描いた、本格的なクラシック音楽漫画だと私が気づいたのは。そのときのことは、またいずれ書きたいです。
以下22巻ネタバレありの感想です。↓
えーと一応断っておきますが、ブログ主は音楽に造詣の深い人間ではありません。クラシックはそれなりに聴くけど、ド素人です。

この巻で、パリのコンセルヴァトワールに留学中ののだめが、いきなり巨匠シュトレーゼマンの指揮で、ロンドンデビューします。曲はショパンのピアノ協奏曲第1番。ひえ〜。

音楽を「絵」で表現するのは、難しいことだと思うけど、二ノ宮知子はすごく上手いと思う。飛んだりはねたりしながら、オーケストラと一体になるのだめの演奏が、本当に聞こえてくるようで、思わず引きずり込まれる。これほど見事に「音楽」を「絵」で表現した漫画を、他に私は知らない。

ロンドンでののだめの演奏を観客として聴いていた、千秋の独白が興味深い。
「やっぱりここに来ても のだめはのだめだ」
「飛んだりはねたり」
「それでも 前みたいにハチャメチャじゃない」
「ちゃんと破綻しないようわかってやってる」

のだめは音大時代から、個性的で面白い演奏をする子だった。
でもハチャメチャな演奏だった。
もともとのだめは、楽譜を読むのが苦手で、耳で聴いて覚えて演奏するタイプだった。
そののだめが、コンセルヴァトワールに入学後、少しずつ、楽譜の中から作曲家の意図を汲み、正面から音楽と向き合うことを学んできた。それが見事に結実したのが、このロンドンでの演奏だったんです。

ここで思い出したのが、中村紘子の『チャイコフスキー・コンクール』(1988年)にあった一節だ。
中村紘子さんは、十代の頃からピアニストとして活躍された方で、この本は、チャイコフスキー国際コンクール・ピアノ部門の審査員としての体験をもとにしたノンフィクションである。

中村紘子はこの本の中で、コンセルヴァトワールとは文字通りコンサバティブ(conservative)のことだ、と指摘している。
私が見聞した限りでは、西洋諸国における教育の基本理念には、音楽だけでなくすべての分野にわたってこの「コンセルヴァトワール」があると思われる。即ち、この場合のコンセルヴァトワールとは日本における保守的といった言葉のイメージとはどこか違い、伝統のある規範や基本を徹底的に踏襲させることが教育の基礎であって、独創や改革はその基盤があってこそ開花する、という信念である。
     (中村紘子『チャイコフスキー・コンクール』P.60)

また中村紘子は、同書の「なぜバッハをショパンのように弾いてはいけないのか」という章で、こう述べている。
これはもう初心者の段階から一貫して見られることであるが、「音楽的」にうたって演奏することと、勝手気ままに「出鱈目」に弾くことが混同されるという事態が実によく起る。これは今に始まったことではなく、昔から音楽修行の過程において常に現出したことであり、殊に自意識の強く才能豊かな、しかし未熟な学生には必ずといってよいほど起る問題であって、だからこそ、教師や先輩が厳しく見定めてやるべきことの典型でもあった。
     (同書 P.242)

中村紘子は、「楽譜に同じようにフォルテ(強く)と記されてあるからといって、モーツァルトのフォルテを、ベートーヴェンの<熱情>ソナタの中のフォルテと同じように弾いてはならない」と言う。
のだめはずっと、そこのところが理解できてなかったんですよ。

14巻の、コンセルヴァトワールでのピアノ試験で、のだめの演奏に対する先生たちの評価は分かれた。
「まるで音遊びをしてるみたいに大胆で……面白かったわ」
「いや! モーツァルトではメヌエットをスケルツォのように弾いたり
 最後は勝手に和音を足したり ぼくはああいうのは許せない!
 サーカスじゃないんだから」

ロンドンでの演奏も、評論家の評価は分かれた。
のだめの演奏は自由奔放で、個性的だった。
でも「破綻」はしていない。ちゃんとわかって飛び跳ねている。

のだめはここまで来たんだね。すっごく成長したんだ。
コンセルヴァトワールという伝統ある学校で「規範」と「基本」を徹底的に学び、 正面から音楽に向き合い、本当の意味で「音楽を楽しむ」ことができるようになった。

ただ、のだめはこの夢を、千秋とともに実現するはずだった。それなのに、巨匠シュトレーゼマンと共演し、思いもかけない形で「成功」してしまった。
これからどうなるんだろうね、のだめは。
完結までのシナリオはできているそうですが、すごく続きが気になります。
ただ、私は単行本派なので、雑誌読んでる人、先の展開を教えたりしないでください。

これ読んで、私はショパンのピアノ協奏曲1番を聴きたくなったんですが……この曲のCD持ってないんだよね。 ただ、買うとなると誰の演奏がいいのか、調べたりしなきゃならなくて、面倒だから買ってない。
2chに行けば、お薦めの演奏を教えてくれるスレがあったりするけど、こういうのって、やっぱ自分の好みがあるので、人のお薦めは当てにならんのよ。
とかいいつつ、ショパンP協1番の名演をご存じの方、教えていただけると嬉しいです。
おしまい。

| ●月ノヒカリ● | 漫画感想 | comments(8) | trackbacks(10) |
2017.12.12 Tuesday 21:09
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Comment
2009/09/18 8:36 PM posted by: 清水太郎
私もクラシック音楽は中学生のころから好きです。ただ、鑑賞ジャンルが交響曲(特にベートーヴェン、ブルックナー、マーラー)に偏しており、ショパンの曲はよく聴いておりません。そこで、手許にある解説書(宇野功芳。中野雄、福島章恭『クラシックCDの名盤』文春新書)を見てみたところ、ピアニストがアルゲリッチ、デュトワ指揮/モントリオール響(1998年録音)が推薦盤として挙げられていました。参考になれば幸いです。
2009/09/18 11:45 PM posted by: 月ノヒカリ
清水さん、こんばんは。
私は交響曲はほとんど聴かないんですが、ベト7とブル4は好きです。
でも私は、いまだに「ソナタ形式」の意味もわからないド素人です。
今調べて気づいたのですが、アルゲリッチとデュトワって、元夫婦だったんですね! これは気になる演奏ですね。
お薦めありがとうございました。
2009/10/07 11:23 PM posted by: 村野瀬玲奈
こういう紹介文というか感想文を読むと、私も原作を読みたくなります。もっと書いてください。とリクエスト。(^^)/
2009/10/08 11:38 PM posted by: 月ノヒカリ
玲奈さん、そう言っていただけて嬉しいです!
「のだめ」は面白いですよ〜。

しかし現在、ブログ主はスネ期に入っているため、世を拗ねたり僻んだりして生きてます。スネスネ。
漫画や本の感想は、そのうち書くつもりですので、また読みにきてやってください。
コメントありがとうございました〜。
2009/10/12 6:01 PM posted by: 村野瀬玲奈
気長に待ちます。(^^)/
2009/10/13 12:07 AM posted by: 月ノヒカリ
玲奈さん、どうもです!
しかしこういう感想を書くのも、けっこう労力を使うとわかったので、次はいつになるやら……です。
2009/10/27 10:48 PM posted by: 村野瀬玲奈
斜め読みですけど(立ち読みとも言う)読み始めました。途中ですけど、とりあえずご報告。

...面白い。
2009/10/28 10:52 PM posted by: 月ノヒカリ
「のだめ」は雑誌では、もう最終回を迎えたようですが……。
疲れた頭には、笑える漫画がいちばんですよ☆
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「のだめカンタービレ」の第22巻が発売になりました。
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