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2015.03.20 Friday 23:01
最近、詩というものをあまり見かけなくなった。
いや私も、詩というジャンルについて詳しいわけではないし、過去それほど詩を読んできたわけでもない。
でも、昔の少女漫画には、よく詩が引用されていたもので、だから自然と目に入ってきたんだよね。
古い詩の文庫本は、今も何冊か持っていて、それらは普段は本棚に眠ってるんだけど……たまーに引っぱり出して読むと、そのときの心境にカチッとシンクロするような言葉に出会うことがある。

そんな古くて懐かしい詩をいくつか、ここに書き写しておきます。
どれか一つでも、気に入ってくれる人がいるといいな。

  「死は涼しき夜」
        ハインリッヒ・ハイネ
        片山敏彦 訳

 死は涼しい夜だ。
 生は蒸し暑い昼間だ。
 早や黄昏そめて、私は眠い。
 昼間の疲れは私に重い。

 わが奥津城に一本の樹は伸び出でるだろう、
 そこに一羽の鴬(うぐいす)はうたうだろう。
 その鳥の歌うのはただ愛のうたばかり。
 死の夢の中でも私は聴くだろう。

Der Tod, das ist die kühle Nacht

新潮文庫の『ハイネ詩集』より。
タナトス。死への欲望。
死を渇望するのではなく、もっとゆるやかな憧憬のような念。
死の世界へ引き込まれる眩暈のような感覚は、眠りへの誘いに似ている。
そういう死への思いを、19世紀前半に活躍したドイツの詩人と、時を越えて共有することができる。古い名作を読む醍醐味って、まさにそれだと思います。
ちなみに「奥津城(おくつき)」とは墓の古語です。


  「あらしの薔薇」
        ルミ・ド・グールモン
        堀口大學 訳

 白き薔薇(さうび)は傷つきぬ、
 荒(すさ)ぶ暴風雨(あらし)の手あらさに、
 されども花の香はましぬ、
 多くも享けし苦のために。
 帯には挟め、この薔薇、
 胸には秘めよ、この傷手(いたで)、
 暴風雨の花に汝(なれ)も似よ。
 手箱に秘めよ、この薔薇、
 さては暴風雨に傷つきし
 花の由緒(いはれ)を思ひ出よ、
 暴風雨は守りぬ、その秘密
 胸には秘めよ、この痛手。

堀口大學による訳詩集『月下の一群』から。有名な訳詩集だけど、今はあまり読まれてないのかなあ。私が持ってる新潮文庫版はもう絶版みたいで、今は岩波講談社から文庫が出てます。

七五調の美しい訳文。
激しい暴風雨(あらし)に襲われて、傷を負った薔薇。でも苦しんだ分だけ、よりかぐわしく豊かな香りを放つようになる。
あなたも、そんな薔薇のようであってほしい。
そういう詩です。刺さります。


  「かなりや」
       西條八十

 唄を忘れた金糸雀(かなりや)は 後の山に棄てましょか
 いえ いえ それはなりませぬ

 唄を忘れた金糸雀は 背戸の小藪(こやぶ)に埋(い)けましょか
 いえ いえ それもなりませぬ

 唄を忘れた金糸雀は 柳の鞭でぶちましょか
 いえ いえ それはかわいそう

 唄を忘れた金糸雀は
 象牙の船に銀の櫂
 月夜の海に浮かべれば
 忘れた唄をおもいだす

大正時代の童謡。有名な歌(YouTubeで聴けます)だけど、よくよく歌詞を知ると、残酷な内容だ。
それだけに、最後の一節のやさしさ、美しさが光る。

この歌について検索したら、西條八十自身による解説がUPされていた。子ども向けの解説で、昭和12年に書かれたものだけど、今の時代にも通用する内容だと思う。

子どもたちが、啼かなくなったカナリヤを「棄てちゃおうか」「埋めちゃおうか」「鞭でぶってやろう」と口々に言うのに対して、お母さんは静かに諭すのです。
「人間でも、鳥でも、獣でも誰にでも仕事のできないときがあります。(……)ほかの人たちには、なまけているように見えてもその当人は、なにかほかの人にわからないことで苦しんでいるのかもしれません。たとえば、このかなりやも、このあいだまで歌っていた歌よりも、もっといい歌を美しい声でこれからうたいだそうとして、いま苦しんでいるのかもしれません。……」

なっとく童謡・唱歌「かなりや」より(常用漢字・新仮名遣いに改めました)

そして月の夜に、お母さんがそのカナリヤを、きれいな船に乗せて海に浮かべると、カナリヤは再び美しい声で歌い出しました――というお話。

なんかものすごく沁みるものがありました。
大正時代から歌い継がれてきた童謡に、そんな深い意味があったとは……。

私は、啼かなくなったカナリヤを鞭でぶったり棄てたりするのではなく、「象牙の船に銀の櫂」を用意してあげる側の人間になりたいな――というのが、ずっとずっと前から変わらない自分のスタンスです。


上に挙げた詩のどれか一つでも、誰かにとっての「象牙の船」や「銀の櫂」となることを祈りつつ。






| ●月ノヒカリ● | その他雑文 | comments(0) | trackbacks(0) |
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