2009.11.03 Tuesday 22:52
   天使の王国―平成の精神史的起源 (幻冬舎文庫)

かつて『JUNE』なんて雑誌を読んでた女性は、やっぱり同時代のサブカル方面に関心をもつ人が多かったんじゃないかと思う。
私も筋肉少女帯を聴いたり、『別冊宝島』を読んだりしてました。90年代の『別冊宝島』は「サブカルの宝庫」って感じでしたね。

浅羽通明は、当時『別冊宝島』『宝島30』等で活躍していたサブカル系評論家だ。
天使の王国』は1989〜91年頃にかけて、『別冊宝島』に掲載された小論をまとめた本。この著書から得たものは多かったけど、とりあえずここでは、『別冊宝島 おたくの本』(1989年)にも掲載された、「『おたく』に死す――富沢雅彦の生涯」についてのみ、語ることにする。

『別冊宝島 おたくの本』は、1989年に起きた宮崎勤による連続幼女誘拐事件を受けて、発行されたんじゃないかと思う。
あの事件は当時、同世代のオタク青年たちにとって衝撃的だったらしい。
ともにオタクの代表的存在である岡田斗司夫・大槻ケンヂの対談で「宮崎勤はオタクのイエス・キリストだ」という発言が残っている(『マジメな話―岡田斗司夫 世紀末・対談』(1998年)より)。しかしこの対談改めて読むと、オーケンってかなりヤバイ人だよね……。

前置きが長くなったけど、ここからが本題。

これまで「なぜやおいが好きなのか」について書いてきたが、私にとっては「トランスジェンダー」というのが一つの結論だった。
「『おたく』に死す」という小論を読み返してみて、ここで語られている富沢雅彦というオタクに、すごく親近感を感じたのです。

富沢雅彦は、1986年に30歳で亡くなったオタク青年だ。彼は主にロリコン同人誌を執筆・編集して生活していたらしい。
しかし富沢は、いわゆるロリコン(小児性愛者)ではなかった。
彼は「本気で女の子に生まれたかった」という。

富沢もまた、三次元の世界よりも、アニメや特撮といった二次元の世界をこそ、自分の居場所と定めた人だ。
富沢は同人誌で以下のように記したという。
 三次元の現実はつねにこの社会内でのアイデンティティを確立せよ、”現実”の生活や家庭や出世、”現実”の女との恋愛やセックスに欲望を持て、それらによって社会に帰属せよと迫る。ぼくらはどうしてもそれに対する齟齬感を抱かずにはいられなかった。
         『天使の王国』P.176

富沢は自分の二次元指向(嗜好)を、社会的な通念とか常識を押し付けてくる”三次元の現実”に対する「異議申し立て」である、と自覚していた。他人を蹴落とし、優位に立つことを強いるこの競争社会に「否」を突きつける、「社会変革の意志」を持つ存在。
これは、かつて栗本薫=中島梓の『小説道場』やJUNE作品群に、「体制への反逆の意志」を感じ取った私と、シンクロする。

富沢の好むアニメキャラは、いわゆる男性オタクの保護欲をそそる「萌え」キャラではなかった。彼が好んだ『UFOロボ グレンダイザー』のマリア、『マグネロボ ガ・キーン』の舞(どっちも私は聞いたこともないアニメだな)という少女は、男勝りでアクティブな女の子だという。
「マリアちゃんは女性化願望のある男の子がかくありたいと思う理想の存在なのである」。
男らしい男性と男のための女らしさを身につけた女性が営む社会を抑圧的と考える富沢にとっては、女の子がいったんマリアや舞のように中性化し、男の子もそれに応じる形で中性化することが、彼にとっての「社会変革」の前提だった。
          『天使の王国』P.186

読めば読むほど、富沢雅彦という人は、『風と木の詩』や『トーマの心臓』を愛した私自身と重なって見える。自分の同族のように感じる。
そう考えると、ちょっと切なくなる。
彼と同じ時代、同じ場所に生きていたら、私たちは語り合えたかもしれないのに。

でもこうして、本を通じて出会えただけでも、感謝すべきなんだろう。
富沢の同人誌に付記されていたという、清原なつのの少女漫画『俺たちは青春じゃない』からの引用文に、この本を読んだ当時の私は心打たれた。

「まがいものでもウソっぱちでも、そこにはそういうものを書かざるをえなかった私たちがいるのよ」

浅羽はこの一文を、富沢が生涯かけて訴えようとした「おたく」の実存宣言だ、述べている。
この一文は私にとっても、「JUNE=男同士の恋愛ファンタジー」という「まがいもの」を、どうしようもなく求めざるを得なかった、十代の私自身をも肯定してくれることばだった。


この記事は、今は亡き富沢雅彦氏への、一腐女子からのラヴレターなのです☆
| ●月ノヒカリ● | オタク | comments(2) | trackbacks(0) |
2017.06.13 Tuesday 22:52
| スポンサードリンク | - | - | - |
Comment
2010/11/27 2:19 AM posted by: AOYAMAK
はじめまして。「浅羽通明」で検索してここに来ました。三十代・男です。

浅羽氏のこの文章は少しでも「おたく」的感性を持った人間なら心を動かされる内容ですよね(僕も固有名詞は理解できないものが多いんですけど。主さんと同じく『UFOロボ グレンダイザー』やら『マグネロボ ガ・キーン』やら全く知らない)。僕は大学を留年してだめ人間やってた頃この本に出会って浅羽氏にはまりました。だから僕にとっての浅羽通明は主さんにとっての栗本薫のようなものです。

とても充実した本だと思うのですが、発行が古いせいか(内容は古びていない)webではあまり言及がないんですよね。ですんでこういう記事を見るとうれしいです。

また拝見しに来ると思います。twitterでもフォローさせていただきました。当方(微妙に死語っぽい言葉を使うと)ROM専で全然tweetしてませんけどよろしくお願いします。
2010/11/28 11:56 PM posted by: 月ノヒカリ
AOYAMAKさん、はじめまして。

「浅羽通明」で検索してこられた方というのは、当ブログで初めてです!
私は、大学時代にニセ・マ三部作を読んで、衝撃を受けましたね。
『天使の王国』もおっしゃる通り、今読み返しても古びていないと思います。

>僕にとっての浅羽通明は主さんにとっての栗本薫のようなもの

ああ、そういうことは本人に直接伝えましょうよ〜。
私はブログ書いていて、栗本薫が亡くなる前にファンレターの一つも書かなかったこと、ちょっと後悔しましたよ。

>ROM専で全然tweetしてませんけど

ツイッターでROM専ってありなのか!
いや、私も最近はほとんどツイートしてませんのでアレですが。

ブログ主は現役でダメ人間やってますので、これからもマターリお付き合いください。
コメントありがとうございました。
name:
email:
url:
comments:
Trackback
http://newmoon555.jugem.jp/trackback/70
Search
Profile
Category
Recommend
Recommend
私の幸福論 (ちくま文庫)
私の幸福論 (ちくま文庫) (JUGEMレビュー »)
福田 恒存
たとえ不幸のうちにあっても、私たちが「幸福である」ために
Recommend
新版・小説道場〈4〉
新版・小説道場〈4〉 (JUGEMレビュー »)
中島 梓
わが人生の師。全4巻
Recommend
敗北からの創作
敗北からの創作 (JUGEMレビュー »)
明川 哲也
9・11テロ後「敗北」した私たちにできる「創作」とは?
Recent Comment
Recent Trackback
Links
Admin
Calendar
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
Latest Entry
Archive
【WEB拍手】
応援してくれる人、拍手ポチッと押してね↓↓↓
↓ブログ主に小銭を!
Analytics
Sponsored links
Mobile
qrcode
無料ブログ作成サービス JUGEM