2009.11.05 Thursday 21:11
評価:
山野 一
扶桑社
¥ 600
(1999-12)
コメント:グロ注意!! 本当は☆評価なんてできない作品です。

ずっと疑問に思っていたことがある。
麻生前首相は、本当に漫画を読んでいたのだろうか?

私はオタク第二世代に当たるのだろうが、子どもの頃から親に「漫画ばっかり読むな」と怒られながらも、「漫画も教養の一部」という反発というか自負のようなものがあった。
「教養」には「基礎」があるはずで、やっぱり24年組を知らない人に少女漫画を語ってほしくない。と同様に、いい大人の男が漫画好きを自認するなら、ガロ系の漫画は押さえておいてほしいよなあ、と思うのです。
そんなわけで、麻生前首相にはぜひ、山野一の『四丁目の夕日』を読んでほしかった。まあ読まないだろうけど。

『四丁目の夕日』は、1985〜86年に『ガロ』に掲載された漫画だ。
私が持っているのは扶桑社文庫版(1999年)なので、おそらく十年近く前に読んだのだと思う。
陰惨、としか言いようのない作品だった。
でもってその当時、私は精神的にどん底状態だったのだが、この漫画の読後に不思議なほど爽快感を感じた。こんな残酷としか言いようのない作品に「爽快感」を感じるなんて、自分でもどうかと思って、その後読むことはなかった。

それを、十年ぶりに再読しました。
やっぱり陰惨、凄絶、残酷としか言いようがない。
『四丁目の夕日』というタイトルは、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の原作漫画を意識してつけられたのではないかと思う。
この作品は、もう一つの『三丁目の夕日』だ。
しかし『四丁目の夕日』は、『三丁目の夕日』のような懐古趣味とは、全く別の次元にある。

主人公の別所たけしは、零細印刷会社の、成績優秀な長男として、両親の期待を背負っていた。
しかし、母・マス江が事故で寝たきりになり、父・富茂は、過労の末、印刷機に巻き込まれて死亡。この死体の描写が凄まじい。「ぐっちゃんぐっちゃん」なのだ。
たけしは、弟妹を養うため、高校を中退して働かなければならなくなった。
たけしは父の残した印刷工場を継ぎ、懸命に努力するが、すぐに会社はつぶれた。努力はまったくの徒労だった。
その後、工場従業員として過酷な労働を続けることになる。「人間」として扱われない、非情な労働環境の中、たけしは次第に精神を蝕まれ、かつて優等生だったとは思えないような「奇行」がはじまる。それでもたけしは、家族のために真面目に働き続けた。

たけしと弟妹の三人で、ささやかな誕生日パーティーを行っている最中、事件は起きた。アパートの下に住むキ●ガイ老人がいきなり現れ、斧で弟妹を惨殺する。このシーンの描写が、あまりにも凄まじい。
たけしは完全に狂気に陥り、老人から奪った斧で、彼を惨殺。その後外へ出て、出会う通行人を、片っぱしから斧で斬りつける。13人を惨殺、25人が重軽傷を負う。
たけしは警察の取り調べにもまともに応じられない錯乱状態にあり、弟妹の殺害を含むすべて殺人が、たけしの発狂による凶行としてかたづけられた。
たけしは精神病院に入院を義務づけられる。三十数年後、治療の効果が認められ、「社会復帰」を果たす。

このラストシーンを読んで、あなたは「救い」を見出すだろうか。
それとも「絶望」を感じるだろうか。

これを単なる「フィクション」として読める人は、幸せな人だ。
私には、日常のすぐ隣にある世界に感じられた。
まあ私は工場労働者だった経験はないし、陰惨な殺人現場に居合わせたこともないのですが。
それでも、この作品に描かれた「悲惨」は、案外「よくあること」なんじゃないか、と思うのです。

まじめに働けば働くほど、報われない。そして「狂気」へ向かわざるを得なくなる。
ここには、人生の最初から定められたとでもいうような、抗いがたい「格差」がある。人生そのものの格差、とでも言おうか。

この作品が描かれたのが、80年代バブル期だったのが、興味深い。
バブル期なら、この作品を「フィクション」として楽しめたのだろうか?
でも、秋葉原で通り魔事件が起こったのは、2008年。
『四丁目の夕日』の世界は、もはやフィクションではなく、今この時代の「現実」なのかもしれない。

本当に精神的にどん底状態にあるとき、私は「心温まるハートフルストーリー」をどんなに読んでも、ただ空しいだけだった。
救いようのない絶望を描いた作品こそが、私を救ってくれた。
万人にお薦めできる作品ではないけど、ぜひ読んだ感想を聞いてみたい作品だ。

あなたはこの結末を、「救い」だと思えますか?

| ●月ノヒカリ● | 漫画感想 | comments(12) | trackbacks(0) |
2017.03.19 Sunday 21:11
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Comment
2010/08/01 1:22 PM posted by: あさこ
はじめまして。このマンガのタイトルを思い出したくて検索掛けてきました。
10年以上前、高校か大学の頃に弟の罠にはまって読まされてしまいました。その時分は読了後絶望を感じて激しく落ち込んで弟を恨んだ記憶があります。
最近浮き立ってきた陰惨な暗い事件を見ているとこの話を思い出し、の結末に小さな希望を感じました。
それでもなんとかなるのかもしれないと。
実は希望のある話だったんだ、とあの頃の絶望感が救われました。
2010/08/03 12:01 AM posted by: 月ノヒカリ
あさこさん、はじめまして。
当ブログに目を留めていただいて、ありがとうございます。

>高校か大学の頃に弟の罠にはまって

おお!……ということは、弟さんは十代で山野一を読んでいたのですね。
末恐ろしい弟さんですね(笑)

私もこの漫画、読んだ直後はショックが大きかったです。
でもそのときの記憶が、強烈に焼き付いていて、十年経っても忘れられない作品でした。

>結末に小さな希望を感じました

この作品にある「希望」というのは、たぶん、すごく深いところまで絶望して初めて感じられるような「希望」なのでしょうね〜。

読まれた方の感想を聞けて嬉しいです!
コメントありがとうございました〜。
2011/05/17 2:53 PM posted by: AOYAMAK
あ、どうも。わけあって「山野一」でググったらここに来てしまいました。「あれ、なんかこのサイト馴染みのある感じ・・・」とか一瞬思ってしまいました。

僕もこのマンガは文庫版で買いました。だからおそらく読んだのは主さんと同時期かと。「お前の親父、ぐっちゃんぐっちゃんになったんだろう?」とかイヤーなせりふが印象に残ってます。

でも山野って寡作ですよね・・・。最近はねこぢるy名義でしか描いてないようですが、かつてのような作風のものもまた読みたいものです。『ヒヤパカ』みたいなのまた描いてくれないかな・・・。
2011/05/19 12:08 AM posted by: 月ノヒカリ
AOYAMAKさん、こんばんは〜。
検索からようこそw

そういえば、このエントリは当ブログで一番読まれてる記事かもしれないですね。2chにリンク貼られたこともあったし。

私は、山野一作品はこれしか読んでないので、他はよく知らないんですよね。
そうとうエグイという話は聞きますが。

それにしてもAOYAMAKさんは、ねこぢるとか山野一とか、ガロ系ばかり読んでいるのですか?
そんなんばっかり読んでると病みそうデスよ……。

これからは少女漫画を読みましょう!
まずは『海月姫』あたりから。慣れてきたら『風と木の詩』にチャレンジ!
薔薇色のスイーツ(笑)な世界があなたを待ってますw

コメントありがとうございました〜。それではまた。
2011/05/19 6:31 PM posted by: AOYAMAK
こんにちは。さっそく『風と木の詩』読んでみましたよ。文庫買って。のっけからああいうシーンだったんで「いきなりかよ」って苦笑しました。絵の華麗さと繊細さにうならされました。二巻以降はどうしようかな買おうかな・・・。

あ、『海月姫』の方は単行本全部持ってます。十回くらい通読してます。「どっふ〜」いただける勢いです。
2011/05/22 11:44 PM posted by: 月ノヒカリ
AOYAMAKさん、こんばんは〜。

『海月姫』いいですよね!
私はあの、日本を滅ぼしそうな変人総理のファンですw
いずれブログに感想書いたら、また遊びに来てください!

『風と木の詩』は、ジルベール過去篇あたりまで読んでから判断してほしいですねー。
あれは(かつての)中学生にはキツイ展開でした。
他にも、ロスマリネとジュールの関係とか、見どころはたくさんあるのですが。
構成がしっかりしているので、途中で話がだれるとか、そういう心配はないです。
ぜひ続きを!読んでみてください〜〜〜!

コメントありがとうございました〜。
2013/07/27 9:20 AM posted by: U・M
初めましてU・Mと申します。
「四丁目・・・」と言うより山野氏の名前や作品は
故ねこぢるさんの作品から知りました。
「四丁目・・・」は現代マンガ図書館で読みましたが・・・

読み終えてから3日ばかり「帰ってこれなくなった」想い出
があります。これ落ち込んでる時に読んだら本気で再起不能
になりますよね汗笑

後「どぶさらい劇場」!!これ渋谷の本屋さんで買って、
うっかり電車の中で読んで数ページ読んだ後大慌てで本を
閉じてしまいました笑
2013/07/29 12:09 AM posted by: 月ノヒカリ
U・Mさん、はじめまして。
過去記事を読んでくださってありがとうございます。
山野一よりも、ねこぢるさん方が一般的には有名かもですね。

>読み終えてから3日ばかり「帰ってこれなくなった」

この感覚わかります〜。昔はそういう作品に時々出会ったものですが、最近はとんとありません。これもトシのせいでしょうか(笑)

『どぶさらい劇場』は読んでないのですが、もう絶版なんですね。
『四丁目〜』みたいに文庫化してくれないんかなあ、と思いますが……今の出版状況じゃあ無理かも。

現代マンガ図書館、行ったことないので行ってみたいです〜。

コメントありがとうございました。
2016/01/31 7:34 AM posted by: 吉川祐介
久々にこの漫画の絵が見たくなって検索してたどり着きました。既に手放して久しいので。

私は高校生の時にこの漫画を読んで『ガロ』でのデビューを目指しました。しかし初投稿後まもなく版元の青林堂が倒産…。ある意味人生を変えられた一冊とも言えます。

山野一の作品は一通り全て読みましたね。妻の「ねこぢる」の方が有名ですが、あれも実は生前からすでにほとんど山野一氏の手によるものであったと、私は某漫画雑誌の編集者の方に聞いたことがあります。
2016/02/03 11:21 PM posted by: 月ノヒカリ
吉川祐介さん、はじめまして、でしょうか。
古い記事を読んでくださってありがとうございます。

私の実人生では、「山野一の作品を読んだことある」という人に出会ったことは、一度しかないのですが……こうしてブログに書くと、濃ゆーいマニアの方に来ていただけて、なんともはや有り難い話です。

高校生で『ガロ』でのデビューを目指したというのは、またかなり特異な路線を走られたようで……もしガロでデビューされていたら、どんな作品が世に出ていたのでしょうか。
青林堂は、今は極右出版社になってしまったようで、「ガロ」という雑誌はもはや存在しませんが、しかし「ガロ系漫画」というジャンルは、日本漫画の一潮流として今後も存在し続ける、と信じています。

コメントありがとうございました。
2017/02/21 9:56 AM posted by: 守銭奴
はじめまして、守銭奴と申します。
同じ名前で某映画サイトで適当な感想書いたりしてますが、あまり名前に意味はないです。
四丁目の夕日、とあるポッドキャストで紹介されているのを聴いて、全く知らない作家さんだし、はじめてきく作品でしたが…恥ずかしながら。
しかしながらどうにも頭から離れず、読もうかどうしようか悩んでるんですよね。
私はグロ耐性はある程度大丈夫なんですが(程度によりますが)、運命的に追い詰めていく系はどうにも苦手で。最近だと「魔法少女まどか☆マギカ」は半年くらい精神的に落ち込んだし、あと鬼頭もひろ「なるたる」最悪だと思い、作者に怒りを覚えたもんです。

どちらも観賞済みでもしお気に入りならごめんなさい。特にまどか☆マギカはいまだに熱狂的ファンが多いようで不用意に批判すると荒れるかもしれないので、そちらの判断で削除してもかまいません。

ただ、話は戻りますが、「四丁目の夕日」どうにも気になって仕方ない。自分もちょっと寒い地方で暮らさざるを得ない状況で、精神的にいろいろキツイんですが、それでもどうにも心に引っ掛かってくる。

どう思いましょうか?って自分で判断することなんでなんとも言い難いでしょうが
なんだか、ネタばれネタばれとうるさい時代、これ最後までストーリー書いちゃってる人がそちらだけでなくたくさんいるんですよね。
2017/02/21 10:42 PM posted by: 月ノヒカリ
守銭奴さん、はじめまして。
『四丁目の夕日』は、あまり人にはおすすめできません。
普通なら、落ち込む内容だと思います。
でも、人を落ち込ませるような漫画の存在価値もある、と私は思っているので、このブログには感想を載せています。
「まどか☆マギカ」は一応見ましたが、私はさほど思い入れはなく、「なるたる」は知りませんでした。
ブログ主としては、あまりおすすめできませんし、読んでどっと落ち込む可能性もありますが、それでもよければ、という感じですね。
コメントありがとうございました。
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