2020.09.12 Saturday

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2017.11.30 Thursday 00:00
今回は、再発癌の治療の話です。
相変わらず、癌の腫瘍マーカーは上昇し続けていて、肝転移も大きくなっていて。
そろそろまた、薬を変えなきゃいけない時期なんだろう、けど。

主治医には、治験を勧められているんですよね。
二種類の抗がん剤の比較試験なんだけど、私はあまり乗り気ではない。というか、はっきり言って、その治験には参加したくない。
理由は、一つの抗がん剤が、脱毛を含む副作用があるから。他に選択肢がなければ、脱毛する薬でも諦めて使うかもしれないけど……今の時点で、脱毛を伴う抗がん剤は使いたくない。

で、私は主治医にそう伝えたんですね。「脱毛する抗がん剤は嫌です」って。
でもね〜、なぜか主治医には、繰り返し治験を勧められるんですよね〜。
えーと、これはつまり、病院側の都合で、私に治験を受けてほしい(データを取りたい)のかな? とか、考えたりもしました。でも、どう言われても嫌なものは嫌だし、自分の体のことなので、自分のQOLを優先したいです。当然のことだけど。

えっと一応、念のために書いておくと。
乳がんの治療は、初回治療(乳がんの診断された時点の治療)は、決められた通りの「標準治療」をした方がいいと言われています。
でも、遠隔転移して、基本的に治癒しないとされている状況なら、自分の好きなようにやっていいと思うんですよ。

風の噂か都市伝説かっていうくらいのレアケースだけど、「癌で余命宣告されたけど、世界一周旅行に行って帰って来たら、癌が消えていた」という話を聞いたことはあります。
それなら、ダメ元で世界一周してみるのも手ですよね。

——って、私は、そこまで度外れて「好きなようにやる」ほどの体力も経済力も持ち合わせていないです。
高価なサプリメントの効用もあんまり信じていないし。

だから、私が「好きなようにやる」といっても、「再発乳がんの治療薬のうち、比較的副作用が少ないものから試したい」という、至極穏当なレベルの話に落ち着くわけです。小市民ですねー。

診察室で、次の治療について主治医に尋ねてみたら、「肝臓の転移が大きくなっている場合、命に関わるので、ある程度強い抗がん剤で叩いておくのが一般的。だけど、決まりはない」とのこと。

「決まりはない」のなら、私は、副作用が軽めの薬から使っていきたい。
私の場合は、「生存期間が数ヶ月延びる」ことよりも、QOLの方が大事。
——ということ、主治医に話してるつもりなんだけど、伝わってないのかも。

診察室で主治医とのやり取りがスムーズにできるよう、「今後の治療に使える薬とその副作用のリスト」が欲しい。けど、どこで手に入るんだろう?
よくわからないままに、がん患者支援センター等を回って尋ねてみて、それらしきリストを手に入れました。
「納得できないまま治療する」ことにはならないよう、これから先使うかもしれない薬の名前くらいは覚えておこうと思います。あまり気乗りのしない作業だけど、この先、そんなに長くないかもしれない残りの人生がかかってるわけだから、仕方ないです。

で、主治医が提案する治験を断っても、患者として、今後の治療をしていく上で不利な状況になる、なんてことはないですよねえ。

こういうことで、ちまちま悩んだりするのって、「世界一周して癌が消えた」的な人と正反対な気がする。でも、そういう性格なのだから、これも仕方ないです。

うーん、気が重いなあ。
まあでも、私は、「明るく前向きな闘病ブログ」をやるつもりはないので、これでいいのです。






| ●月ノヒカリ● | 病気 | comments(5) | trackbacks(0) |
2017.11.18 Saturday 00:02
大江満雄という詩人をご存じだろうか。
たぶん、知らない人が多数派だと思う。
私が大江満雄の名を知ったのは、瀬尾育生著『戦争詩論 1910-1945』の中で、「とても奇妙な戦争詩を書いた人」として一章が割かれていたからだ。
その奇妙な戦争詩を通じて、大江満雄という人物に興味を持ったタイミングで、この『来者の群像』が出版されたのを知り、これも何かの縁かと思って手に取ってみた。

私の好きなタイプの本だ。歴史の表舞台には決して登場しない、けれどもその時代や社会の限界とがっちり向き合った人々の、生きた証が刻まれている。

戦前はプロレタリア詩を書き、検挙され転向して、戦時中は多くの戦争詩を書くことになった大江満雄。
その大江が、戦後間もない頃、ハンセン病者と出会った。正確に言えば、ハンセン病療養所の入所者の詩作品と出会い、それから約40年、彼らの詩作に伴走し続けることになったのだ。
まだハンセン病への偏見の強い時代に、大江は頻繁に療養所へ足を運び、ハンセン病者と飲食を共にしたという。

タイトルにある「来者」という語は、大江による造語だ。大江は、『論語』微子篇にある「来者は追うべし」にヒントを得て、ハンセン病の詩人を(「癩者」ではなく)「来者」と呼んだ。私たちに未来を啓示する「来たるべき詩人」を、ハンセン病の詩人の中に見いだそうとしたのだ。

ハンセン病は、戦後に特効薬が発売されて以降もずっと、国による隔離政策が続いていた(隔離政策については、「ハンセン病 Q&A」の説明がわかりやすい。患者隔離を定めた「らい予防法」が廃止されたのは、1996年のこと)。
発症後、療養所から一歩も出ることなく生活しなければならなかった人々にとって、「表現すること」は、自らを救う行為でもあったのだろう。「ホームレス歌人」がそうだったように。

ハンセン病の詩人といえば塔和子しか知らなかったけど、この本には、他のハンセン病者の詩もいくつか紹介されている。
この本に紹介されている中で、私の一番好きな詩を、以下に書き写してみる。

  病める樹よ
島比呂志


永遠の中の
一年がなかったら
永遠は存在しないということを
樹よ
よく考えてみるがいい

どこからか吹いてきた悪病に
おまえの枝や葉が
変形し
醜悪になったからといって
絶望してはならない
なるほど
風が吹けば
おまえは
仲間以上の危険にさらされるであろう
雪が降れば
ひとしお寒さが浸みるであろう
けれども
全力を挙げて耐えるがいい
ありだけの生命の火を燃やすがいい
やがて
おまえの生涯が終り
板となり
柱となる日
苦しみに耐えて来た
一年一年が
いかに美しい年輪となり
木目となることであろうか

樹よ
悪病を歎くことなく
ありだけの力で生きるがいい
やがて摂理の銛にかかる日まで
血みどろに生きるがいい
樹よ樹よ樹よ樹よ
病める樹よ!


来者の群像』pp.202-205(初出は『愛生』1952年11月号)

私もまた、病気と闘っている最中であるせいか、この詩の言葉に深く響き合うものを感じた。

「生きるとは、年をとることじゃない。いのちを燃やすことや」
これは、ハンセン病訴訟の原告の一人であった中山秋夫氏が語った言葉だ。
隔離政策によって、社会の片隅に追いやられた人の、人生の底の底から絞り出された、生命力をもつ言葉たち。

彼らハンセン病詩人を励まし、詩作を導いたのが、大江満雄だ。
大江は、ハンセン病療養所の園内誌で詩の選評をしていたのだが、この選評からも、大江の「本気」が伝わってくる。大江の文学観のみならず、人間観をも垣間見ることができて、興味深い。いくつか引用してみる。
「詩は反対の立場の人をも納得させることが大切だ。〔中略〕文学というものは敵を(敵とはラテン語では自分のもたないものをもっている者をいう意味があるという)射るものであり、そして共感にまで高めるものでなくてはならぬ」

「現代詩人は感傷性をきらうが、私は、感傷的にならざるをえない立場にある人に、感傷性をもつなということは、雨の中を傘をささずに歩む人に、雨に濡れるなというにひとしいと思う。〔中略〕感傷性には貴重な宝庫があり、泉があると、いうことを知り、それを発見する努力をしなければならないと思う。感傷は感情の傷みだから、それを自らが、いやし、自らが創造的な力に高めてゆくということが大切だと思う」

「『エゴを死刑にしてやりたい』これは、なかなかおもしろいが、〔中略〕エゴというものは社会愛人類愛と切り離すことはできないものだと思う。作者の自己にきびしい態度には好感もてるが、エゴを虐殺すると社会愛とか人類愛の精彩がなくなると思う。自我は人間の表現的実際活動によって社会我世界我に成長するといいたい」

来者の群像』pp.48-49(栗生楽泉園園内誌『高原』大江による詩の選評)

私もまた、細々と短歌を作っているので、上記の大江の評に感じ入るものがあった。と同時に、これらの言葉はとても高い理想を謳っていて、そう簡単に手が届くものではない、とも思える(「敵」が「納得する」だけでなく「共感する」詩って、どんな詩なんだろう…?)。

大江はまた、ハンセン病詩人にこんなアドバイスを送ったという。
「ハンセン病であることを外に強調するな、人間として純粋なものをうたえ」

個人の痛みから出発しながらも、より広い視野でものを見ること。そういう態度があってこそ、普遍的な人間のもつ深みへと到達することができるのだろう。
大江の文学観に同意するにしろしないにしろ、私もまた、表現活動するとき、立ち返りたい原点だ。

この本の巻末の「参考文献」の欄には、ハンセン病療養所で発行された園内誌が列記されている。
もしかしたら、誰の目にも触れないまま、埋もれてしまったかもしれない「来者」の言葉たち。
彼らの生きた証を、今この時代によみがえらせてくれた著者に、心からの賛辞を贈りたい。






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